4月10日から12日にかけ、「Oracle Modern Customer Experience 2018」が米国シカゴにて行われた。昨年までは「Modern Marketing Experience」という名称だった同イベントだが、今回はカスタマーエクスペリエンス(CX:顧客体験)の向上に取り組む人々すべてを歓迎するカンファレンスとして刷新された。本稿では、オープニング基調講演で語られた内容から、企業の顧客体験向上という大きな課題に対するOracleのビジョンを明らかにする。

優れた顧客体験提供を成功に導くもう1つのCX

3日間連続で基調講演のホストを務めたのは、デジタルマーケティングとカスタマーサービスの専門家であり、コンサルティング会社「Convince & Convert」を経営するジェイ・ベア氏である。

  • 3日間連続で基調講演のホストを務めたジェイ・ベア氏。コンサルティング会社「Convince & Convert」のオーナーだ

初日の基調講演の冒頭、ベア氏は「この3日間の話題は"Be Remarkable(卓越する)"だ」と述べ、顧客の期待を上回るような体験を提供できれば、その体験は平凡ではなく伝説的なものになると主張した。参加者に対し、「私たちは、今まで悩んできた問題とは異なる新しい問題を共有している。その問題は顧客体験で卓越することだ」と述べた。

ベア氏は続けて、「実現するためには山に登らなければならない。それもこれまで以上に高く急峻な山だ。控えめに言っても大変な取り組みになるだろう。デジタルにより環境が激変した。だから、私たちはもっとスマートにならなければならない。もっと速くならなくてはならない。そのために必要になるのは『Continuous Experiment(継続的な実験)』である」と語った。

すなわち、継続的な実験をもう1つのCXと位置付け、反復を迅速に繰り返していけば、最終的には伝説的な顧客体験を提供できるようになるというのがベア氏独自の見解である。卓越したCXを創造する人々は、組織の中で顧客に対するヒーローになると述べ、「このイベントをCXヒーローになるという挑戦のための学びの場にしよう」と呼びかけた。

Oracleでは、組織の中で顧客体験の向上という課題に取り組んでいる人たちのことを「CXヒーロー」と呼ぶ。今回のカンファレンスの名称を「Customer Experience」に変更したのは、組織の中でCXがマーケターだけの課題ではない状況を踏まえてのことと見られる。期間中、マーケティング、セールス、コマース、カスタマーサービスのように、顧客ライフサイクルに直接関係するプロフェッショナルたちはもちろん、ITのように間接的に収益を支える組織、さらには外部のパートナーとしてクライアントの顧客体験向上に取り組む支援するプロフェッショナルたちがカンファレンスの主役「CXヒーロー」であると、Oracleは強調していた。

2つのトレンドがモダンCXのドライバー:テクノロジーと法規制

ベア氏に続いて登壇した、Oracle VP兼CXエヴァンジェリストを務めるデス・ケイヒル氏は、本題の前に「OracleはCXヒーローを支援する役割を担いたい」と述べた。Oracleでは、組織が顧客体験に関する戦争に勝利し、厳しい状況を打開するための探求を続けているのだという。

  • Oracle Vice President兼CXエヴァンジェリスト デス・ケイヒル氏

「ヒーローはリスクを厭わない。ヒーローは挑戦を受け入れ、ヒーローは断固とした決断で勝利し、探求に成功する人たち」と力強く述べたケイヒル氏。「私たちはお互いに学び合い、一人ひとりがヒーローになるために何が必要かを発見する機会を提供したい。皆様には組織のCXヒーローとしてインサイトを持ち帰り、それぞれの役割の中で活用してほしい」と語った。

顧客が企業やブランドに寄せる期待は高まる一方であるが、多くの組織が現在提供している体験はその期待を満たす水準には至ってない。ケイヒル氏は、CXを取り巻く状況と課題についての認識を参加者と共有するため、アナリストの予測を紹介した。米調査会社Forresterの「Predictions 2018:A Reckoning Year」によれば、2018年は30%の企業がCXパフォーマンスを低下させる年になり、企業のビジネス成長に悪い影響を及ぼすのだという。CXへの取り組みは大きな壁にぶつかっているということだ。

ケイヒル氏は、現状の裏には2つのトレンドが影響していると解説した。1つはテクノロジーの革新である。企業は、マーケティングオートメーション、リードスコアリング、キャンペーンマネジメント、SFA、オンラインコマース、セルフサービスなど、さまざまなソリューションへの投資を通して、顧客体験の向上に取り組んできたはずだ。過去2年間を振り返っても、Oracle自身、組織にさまざまな新しいCX機能を提供してきた。だが、企業が今までに頑張ってきたことは、「単に低いところにぶら下がっているCXの果実を収穫できたにすぎない」とケイヒル氏は話す。

「問題はテクノロジーの変化のスピードだ」とケイヒル氏。顧客が情報収集を行おうとする時、10年前であれば、カスタマーサービスの代理店と話をするだけでよかった。5年前ならば、Webサイトから情報を探した。それが今では、スマートフォンに話しかけ、即座に情報を取り出すことができる。スマートフォンのカメラ機能を使い、購入した商品の決済も可能だ。数年前は考えられなかった体験をしているわけだ。

顧客の期待という「バー」は上がり続けている。ここ数年、AI、VR(Virtual Reality)/AR(Augmented Reality)、IoT、顔認識など、様々な新しいテクノロジーが登場している。これらが生活の中に溶け込むのであれば、今日、来週、来月、そして来年、企業が提供する体験も大きく変わることになるだろう。競合他社のテクノロジー導入が進めば、さらに顧客の期待は高くなる。