中国純国産の民営自動車メーカー、吉利汽車の快進撃が止まりません。しかし、高成長織り込み、株価は一段落中です。この調整は買い好機とみて良いのかを考えてみます。

◆急成長を続ける吉利汽車
吉利汽車は中国純国産の「吉利(GEELY)」ブランドで知られる民営自動車メーカーです。1997年創業と若い企業ですが、上海汽車(SAICモーター、上海市場上場:600104)に次ぐ、中国自動車メーカー第2位の時価総額となりました。高値時で3兆円を超えた時価総額は、世界自動車企業の16位までランクを上げ、スズキ、SUBARU、フェラーリなどを抜きました。

快進撃の起点となったのが、2010年のスウェーデンのボルボ・カーズ(ボルボの乗用車部門)買収で、この純国産ブランドにボルボのデザインを含む洗練されたノウハウを注入してきました。両社合弁会社(折半出資)による共同開発ブランド「Lynk&Co(領克)」の販売を昨年開始したばかりで、将来は海外市場を視野に入れます。

また2月23日に同社の親会社である浙江吉利控股集団(同社会長個人の所有する海外法人)がメルセデス・ベンツを展開する独ダイムラーの株式9.7%を市場で取得し、筆頭株主に躍り出たとの報道がありました。同社は1月にダイムラー社株式取得を試みるも拒否されており、その後、同社でなく、同社会長個人の所有する海外法人が約1兆円を支払って市場より買い集めた模様です。吉利汽車として取得した訳でないので、提携や業績への影響はないものですが、将来的な発展に含みを持たせます。

もっとも、好調な業績、ポジティブなニュースにも関わらず、株価は昨年秋より調整を続けています。急成長もかなり織り込まれてきましたので、一旦健全な調整ベースに入った様子です。それでも大きく下げることなく、持合いの中を横這い推移しており、将来的な一段高を見据え、底堅い動きと言えます。

◆快進撃を遂げた2017年の業績
2017年の業績を確認すると、売上は72.7%増の927億元、純利益が108.0%増の106億元と大幅増収増益となっています。販売台数が63%の大幅増、そして新製品の高単価によって平均単価も7%上昇し、16年に続き17年も快進撃が止まらない様子です。

快進撃を牽引しているのは、売上上位6車種のうち2016年に投入された4車種で、中でも2.0LエンジンのSUV車種「BOYUE(博越)」、1.8L・クロスオーバーSUV「エムグランドGS(帝豪GS)」、「Vision SUV(遠景SUV)」の3つは販売台数を大きく伸ばしました。

販売2位の14年より販売する主力セダンの「ニュー・エムグランド(帝豪)」、同じく14年より発売されるセダン車の「Vision」は安定しているものの、殆ど成長に貢献していません。数量増と製品ミックスの改善効果で売上が大きく伸び、規模の拡大効果によって販売管理費などの経費率が減少し、その分各利益率が高まって利益倍増となりました。

「その他」の車種が伸びてきており、中には純電気自動車の「エムグランドEV」などもありますが、何といっても11月中旬より発売したボルボとの共同開発ブランド「Lynk&Co(領克)」の初モデル「領克01」に注目されます。

2017年11月17日に先行予約販売された「領克01」は、2分で6千台を超える注文があり、決済もされたとのことです。12月も6千台以上売れた模様で、この新ブランドは想定以上の高い評価を受けています。現在までに3万台の受注残を抱え、納車には3~4か月を要する模様ですが、今後新工場稼働によって供給能力は各段に上がって行きます。

「Lynk&Co」はボルボとのジョイントベンチャーであり、販売台数には加算されるものの、売上高には含まれません。当合弁会社利益に対する出資割合が、関連会社利益として載ってくるだけです。まだ新会社は黒字化しておらず、昨年は7千万元の赤字でした。好業績を反映し、配当を前年の0.12HKドルから0.29HKドルへ2.4倍も引き上げました。

◆18年投入の新モデルで世界トップ10へ
販売台数は2018年1月まで大きく伸びてきましたが、2月は減速しています。そもそも対前年同期比での伸び率で言えば、100%を超える伸び率から徐々に低下傾向にあり、2月は+38.5%にまで下がっています。このため今期以降の販売台数予想や売上高を下方修正するアナリストもおり、株価も調整しているところです。先述のように昨年の好決算を主導したのは、2016年に発売された4つの新型車です。昨年は新型車の発表が一息ついたところでした。

「領克01」はボルボのエンジンを搭載し、ボルボのデザインを導入したもので、今後欧米販売向けはボルボの工場でグローバル生産されて行く予定です。現在は浙江省の工場で生産されていますが、河北省に専門の工場を完成させ、今年発表予定の新モデル「領克02(クロスオーバー車)」「領克03(セダン車)」の生産を行います。

Lynk&Coはグローバルでの成功を目指し、今年は欧州で、その後米国でもボルボ工場を利用しながら発売し、2020年までに10モデルを投入していく計画です。また吉利ブランドでもEV(電気自動車)、SUV、セダンで各2つずつ、そしてMPVでも1つの新車を今年発売する予定です。さらに既存主力モデルのプラグインハイブリッド(PHEV)も発売する予定です。

16年発売の4車種が17年の成長を牽引したように、今年発売の新モデルは、19年頃より同社業績を再加速させるでしょう。それが牽引して株価も再加速すれば、いよいよフォードなどに追い付き、世界トップ10の自動車メーカーに簡単になれると思います。差は僅かであり、世界上位20の中で最も急成長しているのが吉利汽車です。同社は今年の販売台数目標を27%増の158万台としておりますが、控え目な数字であり、180万以上は充分可能と思います。

◆コンパクトなバランスシートと高い資産回転効率
バランスシートは売上に対してコンパクトであり、高い資産回転効率を生むことから、ROEは36%という高水準です。上位の自動車メーカーの中でも、高水準のマルチ・スズキ(インド)を大幅に上回るROEです。トヨタで10.6%予想、比較的高いBMWでも15%ほどです。

同社は220億元を投入して浙江省に年産30万台規模の新エネルギー車工場を設立し、同時に100億元を投じてトランスミッション工場も建設する予定です。着工は10月より開始され、同社は1月に3億米ドルの社債を海外投資家に向けて発行もしています。合弁のLynk&Coに対しても、同社は昨年37.5億元の資本支出を投じました。それでも十分なフリーキャッシュフローを確保しており、財務は健全です。

◆株価が調整している現在は長期目線で買い好機か
国内で5%強のシェアを持つ同社ですが、輸出は1%もなく、今後の欧米など海外進出を考えると、伸びしろは大きいと思います。ボルボのデザインとエンジンを搭載し、実質ボルボ工場で生産される新ブランドは、十分欧米でも受け入れられると思います。

現状株価は調整していますが、新車の発売サイクルの谷間にあたり、次のピークへ向けて始動する前の良い調整になると思います。同社の李書福会長は、1月に株価が下がったところで1,883万株の自社株を購入(平均24.99HKドル)し、46.18%保有する筆頭株主として買い増しを行っています。

長期的に見れば、世界最大の自動車大国、中国の純国産ブランドとして大きく飛躍し始めたばかりです。中国の自動車産業は外資合弁によって発展してきましたが、「強国」を目指す中国としては純国産へシフトしたいところでしょう。同社やアリババが本拠を構える浙江省は、習主席が長年トップを務めた場所で、経済的繋がりの強いところです。どことなく習体制の権力強化と同社の急激な発展が重なる中、国産ブランド発展へ向けて先頭を走っています。

供給能力の拡大と新車発売ラッシュにより、昨年到達した125万台は通過点にすぎません。さらに倍増、3倍増という成長余地は十分感じられ、勢いもあります。財務内容も素晴らしく、調整しているここは買い好機であり、その後長期に保有すべき銘柄の筆頭候補と思います。

文=戸松 信博