先日、上司に報告書を提出したら、「この"サーバー"って表現、全部"サーバ"に直して」と言われた。えっ、サーバーじゃないの? ということで、今回のテーマは「長音(―)」。サーバとサーバー、どちらが正しい表現なのか。長音の使い方とあわせてご紹介します。

■長音とは

「サーバ/サーバー」のほかにも、「コンピュータ/コンピューター」「ブラウザ/ブラウザー」など、「―」を付けても付けなくてもいいような言葉はたくさんあります。話したり耳にする分には気にならないかもしれませんが、文字にしたり見たりした時に「あれ?」と思う人も多いのではないでしょうか。

このように、外来語の長く伸ばして発音する部分を「長音」と呼び、それをカタカナで表記する場合には、長音符号と呼ばれる「―」で表すのが一般的です。主に、外来語の末尾が「-er、-or、-ar」の際に使用しますが、語尾にこの長音符号を付けるか否かについては、それぞれの業界等によって意見が分かれています。

■長音のルール

経済産業省の審議会のひとつである「JISC」(日本工業標準調査会)は、「外来語の表記に語尾の長音符号を省く場合の原則」として、もともと以下のように定めていました。

a) その言葉が3音以上の場合には、語尾に長音符号を付けない。(例:エレベータ/elevator)
b) その言葉が2音以下の場合には、語尾に長音符号を付ける。(例:カー/car、カバー/cover)
c) 複合の語は、それぞれの成分語について、上記a)又はb)を適用する。(例:モータカー/motor car)
d) 上記a)~c)による場合で、長音符号を書き表す音(例:テーパ/taper)、はねる音(例:ダンパ/damper)、及びつまる音(例:ニッパ/nipper)は、それぞれ1音と認め、拗(よう)音(例:シャワー/shower)は1音と認めない。

「エクスプローラー」「フォルダー」「コントローラー」「スキャナー」など、この長音問題に該当する用語は、とりわけIT用語に多く、世界中のIT業界を牽引するMicrosoft社をはじめ、多くのIT・工業関連の企業が、長い間、このJIS規格に準じ長音を省いてきました。

しかしながら、新聞や雑誌などのメディアで「長音あり」が用いられ、それが世の中に浸透しはじめると、Microsoft社は2008年、「コンピュータが日常必需品となり一般化してくるにつれて、長音なしの表記に対し違和感を覚えるユーザーが増えてきたことから、一般的な表記に合わせる時期」と判断。国語審議会の答申を受けて出された、1991年の内閣告示第二号(下記参照)をベースにした表記に順次移行していくことを発表しました。

「長音は、原則として長音符号『ー』を用いて書く」、また「英語の語末の -er、-or、-ar などに当たるものは、原則としてア列の長音とし、長音符号『ー』を用いて書き表す。ただし、慣用に応じて『ー』を省くことができる」

長音語尾を省略するか否かの問題に、Microsoft社が巨大な一石を投じると、IT業界を中心にこれに追随し、「長音あり」に切り替える媒体が多数現れました。JISでは現在、以下のような文言が加えられています。

a) 専門分野の用語の表記による。 注記 学術用語においては、言語(特に英語)のつづりの終わりの -er、-or、-ar などを仮名書きにする場合に、長音符号を付けるか、付けないかについて厳格に一定にすることは困難であると認め、各用語集の表記をそれぞれの専門分野の標準とするが、長音符号は、用いても略しても謝りでないことにしている。
JISCのウェブサイトのJIS検索から、Z8301で検索すると確認できます

つまり、IT業界等では「長音あり」を採用しているものの、現時点で全業界が足並みを揃えるのは難しく、長音を付けるか否かに厳格な決まりは設けないということです。


長音を付けても付けなくても、間違いではありません。しかしながら、ひとつの書類の中で長音アリとナシが入り混じっていたり、同じ企業のカタログにもかかわらず、製品によって違っていては統一感がありません。業界や企業によっては、ガイドラインを設け一方に統一している場合もありますので、一度、確認してみるといいかもしれません。