Appleがイベントを開催する前の週から、Facebookの8,000万人を越えるユーザーデータの流出スキャンダルで、プライバシーに関する懸念が高まっていた。この影響で、消極的な理由からAppleが支持を集める可能性が出てきた。

Facebookはソーシャルメディア広告をビジネスモデルとした無料サービスで、ユーザーが投稿するデータが流用されたのが問題となった。Appleは教育市場に限らず「ユーザーデータから収益を上げるビジネスモデルを有していない」と強調する。

Schoolworkの仕組みを提供する中で、教員は生徒の制作物を見られるが、それ以外の人の目に触れることがない点を強調しているのだ。加えて、位置情報やコミュニケーションサービスなどは標準でオフになっており、必要に応じて使用する仕組みとなっている。

現実的な話として、Appleが選ぶべき最適解は、G Suite for Educationが導入済みで、メールやカレンダーなどが提供されている環境において、iPadを利用する、というものだったかもしれない。しかし今回のSchoolworkの導入がされれば、メールに頼らず生徒とのコミュニケーションを行う手段を確保できるため、G Suite for Educationがない環境での総合的な学習管理を実現可能となったのだ。

AppleはiPad導入の教育機関に対して、他社製サービスに頼らず環境を整えられるようになった。同時に、プライバシーの管理が難しくなる複数サービスの利用を避けられる。

Appleは米国の新学期である9月にむけて、Schoolworkを前提としたiPad導入を進めていくことになる。現在のプライバシー懸念は明らかにAppleにとって追い風となっていく、と見て良いだろう。

松村太郎(まつむらたろう)


1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura