生涯の家計収支を改善するために「支出ダウン」、「収入アップ」、「運用利回りアップ」という、3つの方法があります。今回は、なかなか取り組みにくいけれど、最も家計改善効果の高い「収入アップ」について、最近の雇用環境を踏まえて解説します。

◆2050年には、100歳超の人口が50万人!
厚生労働省が発表した、平成29年9月15日時点の100歳を超える日本人は約6.8万人で、20年前と比較し、約6.7倍に増加しました。さらに、国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口(平成29年推計)では、2050年には100歳超の人口は約53.2万人に上ると推計されています。まさに、「人生100年時代」の到来です。

その一方で、老後の生活に不安を感じている人の割合は、85.7%(男性82.1%、女性88.4%)で、約9割近くの人が老後に不安を感じているようです(生命保険文化センター「平成28年生活保障に関する実態調査」)。長生きは、素晴らしいことだけれども、先立つもの(=お金)が十分にないと老後の不安は解消できません。

◆人生100年時代のお金の方程式
人生100年時代を「お金」の面で乗り切るとした場合、「人生のお金の方程式」の視点が欠かせません。人生のお金の流れを簡略化すると下の図の通りで、働いて「収入」を得て、将来の消費に備えて「貯蓄」するか、日々の生活をするために「支出」するかです。従って、人生全体で収支を改善し、資産を築くためには、「収入を増やす」、「支出を減らす」、貯蓄の一部を投資に回すなどをして「運用利回りを上げる」の3つの対策を行わなければなりません。これは、良く知られていることでしょう。

人生のお金の方程式(収入・支出・運用)

これらの3つの対策は、どれか1つを選択して実施するのではなく、バランス良く行うことが最も効果的なのです。けれども、すぐに取り掛かることがきる方法として「支出を減らす=節約」を選択する人が多いのではないかと思います。ところが、人生の方程式の視点を踏まえると、3つの対策の中では、効果が低いものと言えるのです。

◆「収入アップ/支出ダウン/運用アップ」どの対策が一番効果はあるの?
今、家計を単純化するために、収入100―支出80=貯蓄20とし、資産に対する運用利回りを1%とします。これを【現状】パターンとして、 ・収入を110に増やした【収入10%アップ】パターン ・支出を72に減らした【支出10%ダウン】パターン ・運用利回りを1%から3%に2%増やした【運用アップ】パターンの資産残高の推移(40年間)を比較できるようにグラフ化してみました。

人生の家計収支改善、3つの対策と効果の比較

シミュレーション結果、最終年の40年後を見ると、【運用アップ】、【収入アップ】、【支出ダウン】の順番で、資産残高が多くなっているので、人生収支の改善効果が高いという結果がわかります。中間の20年後を見ると【収入アップ】、【支出ダウン】、【運用アップ】の順番で資産残高が多く、順位が入れ替わっています。

【運用アップ】は、人生収支改善効果は高いけれども、すぐに効果が上がらず、時間がかかるということがわかります。投資を始めたばかりの人が、なかなか効果が実感できず、また、価格変動でマイナスになることもあるので、途中で挫折してしまう人が多いというのも、納得できます。

今回のシミュレーションは、家計をかなり大雑把にモデル化したもので、収入の上昇率や、ライフイベント支出や物価変動など一切考慮していませんが、人生収支改善の効果をイメージするのには役に立つのではないかと思います。人生収支を効果的に改善するためには、【収入アップ】や【運用アップ】に、目を向ける必要があることがご理解いただけたのではないかと思います。

◆人生収支を改善するための収入アップ3つの方法
人生全体で収入アップすることを考えた場合、3つの方法が考えられます。

・収入自体を上げる:キャリアアップ
・働く期間を伸ばす:定年後も働く
・複数の収入口を作る:サイドビジネス(副業)、兼業

1つ目の「収入自体を上げる」方法として、資格を取得したり、キャリアアップしたりして、自分の価値を高め、転職や社内で昇進し、収入を上げる方法です。2つ目の「働く期間を伸ばす」方法として、定年後の再雇用制度を利用したり、定年後も経験を活かしたりして働く方法です。3つ目の「複数の収入口を作る」は、サイドビジネス(副業)をすることなどです。共働きの場合、これらの3つの対策を夫婦それぞれで行えば、効果は倍増します。

◆人生100年時代に収入アップのために学ぶべきこと
現在の収入を上げるために、社内で昇進したり、転職を成功させたりするなど、キャリアアップのために自己投資(学び)は欠かせません。では、どのような分野に自己投資をすれば良いのでしょうか? 以前の記事(自己投資をすれば収入は本当に上がるの?)の中で、キャリアアップのために人気のある資格の取得は必ずしも収入アップにつながらないという点に触れました。自身が選んだ自己投資(学び)を上手く、キャリアアップに結び付けていないということです。

働き手自身の理想のキャリアパス(将来自分が目指す職業を踏まえた上で、どのような形で経験を積んでいくかという順序や計画)と、将来取り組みたい「学び直し」について、食い違いがあるという最近の調査結果もあります。

平成29年度経済産業省委託事業(労働市場における最新技術の活用状況と企業動向等に関する調査)より

この調査では、働き手の約7割が「スペシャリストを志向」しているにも関わらず、今後の「社内での活躍」を見据えて、将来取り組みたいこととして「趣味や生活に関する学び」が最も多く、専門的な知識や技能を習得するために「業務時間外に通学・通信学習等」や「大学院や留学などへの企業からの派遣」、「大学院進学等のための自己啓発休業」が少なくなっており、働き手自身が考える「理想のキャリアパス」と「学び直す内容」にギャップが存在していることを示しています。

個人的には、「ライフプランを設計する研修」が4番目に挙がっているのは、喜ばしいことなのですが、仕事と関連した専門的な知識や技能とは異なります。

人生100年時代の学びに対して、従業員と企業側で意識が異なるようです。人生100年時代と言われる長寿化する社会において、「生涯を通して新しいスキルと専門知識を獲得する」というキャリア意識を持つことが重要かという質問に対して、「重要だと思う」と答えた企業の割合は43.2%であるのに対し、従業員は27.0%となっています(経営革新と「稼ぐ力」の向上に向けた仕事とキャリアの管理に関する調査研究より)。

20代前半に1つの会社に就職し60歳で定年退職という、今までの一般的な職業生活を考えてみましょう。この場合、20代前半で仕事を覚え、30代後半まで知識経験を活かし、30代後半から40代前半で中間管理職として後輩・部下の育成などのマネジメントを覚え、40代後半から50代前半で本格的なマネジメント層として経営や管理について学ぶというようなキャリアパスがある程度見えていました。

このキャリアパスを実現するためにも就職から退職までの生涯学習は必要でしたが、人生100年時代では、一生涯(人生)を通じての学びがますます求められるでしょう。この意識を持つ人と持たない人との家計面での格差(収入格差)も大きくなるのではないかと思います。

◆4人に1人は生涯現役を希望!?
「定年までバリバリ働いて、リタイア後は悠々自適に暮らす」ことが、「理想の人生」と言われた時代もありましたが、「定年」とは関係なく、できるだけ長く働きたいと考えている人が増えてきています。ハイライフ研究所が実施した「次世代高齢者意識調査2016」によると、51歳から75歳までの男女500人に対して、「何歳まで働きたいか?」という問いに対して、一般的に定年とされる「65歳」を超えた66歳以上と回答した人の割合は、57.2%で約6割です。

さらに、「働ける限り働く」と回答した人の割合は、25.2%で4人に1人は生涯現役を希望しています。経済的な理由もあるのでしょうが、人生が80年から90年、100年と長くなることを考えると、リタイア後の人生をどのように過ごしたらよいのか、想像がつかないのかもしれません。

「次世代高齢者調査2016」(ハイライフ研究所)

FP相談をしている際に、生涯の収入をシミュレーションするために、「いつまでの働くか?」という希望を伺いますが、多くの方は「65歳」と回答されます。65歳以上働けるどうかわからないので、シミュレーション上は堅めに「65歳」と置いているのが実際のところなのでしょう。

実際に65歳以上で働いている人は、どのくらいなのでしょうか。「労働力調査」によると、平成28年の高齢者の就業者数は前年と比べ38万人増加し、13年連続の増加で770万人と、過去最多となっています。また、平成28年の高齢者の就業率は、男性が30.9%、女性が15.8%となっています。

このうち、65~69歳の就業率は、男性が53.0%、女性が50.8%といずれも前年より高くなっています。このデータを見ると、65歳以上で働いている人は、意外に多いことがわかります。このデータをお客様にお見せすると、「65歳以上も働いている人が、こんなに多いんですね」と驚かれます。

※「統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)-「敬老の日」にちなんで-」(総務省)より

65歳以上の人は、どのように働いているのでしょうか。従業上の地位別にみると、

・役員を除く雇用者:400万人(52.3%)
・自営業主・家族従業者:263万人(34.4%)
・会社などの役員:102万人(13.3%)

となっています。さらに、雇用者の雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員が高齢雇用者の75.1%を占めており、そのうちパート・アルバイトの割合が51.1%と最も高くなっています。

非正規雇用に就いた理由として、「自分の都合の良い時間に働きたいから」という回答が男女ともに最も多かったです。65歳以降の働き方として、「自由な時間」、「ある程度の家計にプラスになる」、「これまでの専門的な知識が活かせる」というのがキーワードと言えそうです。

◆副業は原則的に自由になる?
昨今の働き方改革の中で、柔軟な働き方として、兼業・副業・フリーランスが注目されています。従来は、兼業や副業はご法度という企業が多く、私が会社員であった頃もそのような認識でいました。「働き方改革に関する企業の実態調査」(日本経済新聞社)によると、兼業・副業に関する企業方針として、

・現在認めている:18.0%
・現在認めていないが、認めることを検討中:9.2%
・現在認めていないが、(一定の懸念が解消されれば)認めることを検討する:36.9%
・現在認めていないし、今後も認めるつもりはない:35.9%

となっています。すでに2割近くの企業が、兼業・副業を認めていることに驚きましたが、およそ3分の2の企業が兼業・副業を容認する方針だそうです。

「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定)を踏まえ、厚生労働省では、平成30年1月にモデル就業規則を改訂し、公表しました。改定後のモデル就業規則では、従前の労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業について規定を新設しています。

そう考えると、1つの企業に所属し、その企業だけを見て考えればよかったキャリアプランを大幅に見直す必要が出てきます。主体的に取り組むことで、家計における収入を得る手段・方法がこれまでと劇的に変わる可能性が秘めています。兼業・副業から創業・新事業創出を成功させた事例もあります。

◆人生100年時代の家計改善「収入改革=働き方改革」が重要に
生涯の家計収支を改善するために「支出ダウン」、「収入アップ」、「運用利回りアップ」という、3つの方法がありますが、今回は、なかなか取り組みにくいけれど、最も家計改善効果の高い「収入アップ」について見てきました。いろいろな統計データを見てきましたが、例えば、高齢者の就労状況や、副業・兼業に対する企業の方針の変化など、今までの認識と異なる結果に驚かれたのではないでしょうか。

「収入アップ」の方法として、柔軟な働き方(兼業・副業・フリーランス)が認められる世の中になるということは、家計の中で収入をどのように組み立てていくのか、選択肢が広がったと言えます。ただ、そのためには、どのように働き、あるいは学びキャリアを形成していくかを真剣に考える必要があるということです。「労働市場における最新技術の活用状況と企業動向等に関する調査」によると、7割の働き手は、「キャリア・スキルの棚卸をしたことはない」とのことです。

人生100年時代、貯蓄が尽きることなく、人生を豊かに送るためには、「働いて、どう収入を得るか」が重要になってきます。まずは、しっかり自身のキャリア・スキルの棚卸を行い、次に、今までと視点を変えて、家計における収入改革=働き方改革を検討してみてはいかがでしょうか。そうすれば、新しい理想のライフプランが実現できるようにかるかもしれません。

文=平野 泰嗣