【医師が解説】縁結びが叶ったり、病気が治ったり、志望校に合格したり。恋愛成就や学業成就などのお守りのご利益や、パワーストーンなどの効果を信じて身に付けている方は多いもの。「お守りは効果なし。非科学的だから買わない」という人もいるようですが、今回は精神医学的に見るお守りの効果、お守り等への依存が強すぎる場合の注意点等について解説します。

◆お守りのご利益・効果……「効果なし」とは言えない面も

健康祈願、商売繁盛、恋愛成就、合格祈願……。神社などに行くと願い事に合わせて様々な種類のお守りが売られています。これらのお守りをバッグや財布に入れて持ち歩いている人や、「幸運の○○」「子宝に恵まれる××」と言われるようなモチーフや、パワーストーンで作られたブレスレッドなど、いわゆるラッキーチャームの類を身に付けている人は少なくないものです。受験勉強中や病気が見つかった時など、それぞれにご利益があると言われる神社などにお参りに行き、強い気持ちでこれらのお守りにすがることもあるでしょう。

また以前は、組み紐の一種である「ミサンガ」が「自然に切れると願いが叶う」といった言葉とともに、サッカー選手から広まって大流行したこともあり、お守り的なものがファッションとしての要素を強めて人気を集めたこともあります。

いずれにしても、それらの効果は科学的根拠はないと言う人は少なくないでしょうが、そんな野暮な事は言わないで……と思われる方も少なくないでしょう。今回はこれらの広い意味での「お守り」の、精神医学的な効果について、詳しく解説します。

◆持つ人の精神的変化と行動で変わる、お守りの「効果」

古くからある神社のお守りを始め、何かのゲンを担いだものを身に付けてから、本当に願いが叶った、物事が上手くいくようになった、という声はよく聞くものです。

これらは科学的な実証は難しいものですが、非科学的だと主張するのは、幸運を呼び寄せるメカニズムは科学ではないと言うようなものでしょう。お守りの効果やご利益に対しては、結果までの論理的な過程が話題になることは通常なく、結果そのものにのみ話題の重点が置かれるものです。

縁結びであれ志望校合格であれ、もし何かしらのお守りを身に付けて気持ちがポジティブになって力を発揮できるならば、それはとても結構なことだと思います。もし信じているお守りの類が、極端に値が張るものでもなく、信じることで日常生活にも何の問題も出ないのではあれば、他人がどうこう言うべき問題ではありません。

◆プラセボ効果の例に見る「信じること」が心身に与える影響

お守りの効果は、強く信じる人もいれば、全く信じない人もいます。効果を信じない人にとっては、お守りの効果を信じて大切にしている人はナンセンスに見えるかもしれません。しかし、信じることによって、お守りの効果が発揮される可能性があることは、否定できないことです。

信じることが効果を生み出す例は、医学的にも知られる「プラセボ効果」でも説明できます。プラセボ効果とは、実際には効果のない偽薬(プラセボ)を、「よく効くお薬ですよ」と、その研究に参加された方がそう説明されて信じて飲むことで、実際に言われたような効き目がある程度現れたり、実感したりすることを言います。実際にはないはずの効果が、「そうだと信じる」ことで現れてしまうのです。

このような例からも、心理的な要素は身体症状に影響を与えることがわかります。

こう考えると「お守りに効果がある」というよりも、「『お守りを信じること』に効果がある」とも言えるかもしれません。健康であれ学業であれ恋愛であれ、お守りの効果を信じることで、通常より前向きな気持ちになれたり、自信を持ってリハビリや学業、出会いの場への参加などに取り組めるようになったり、集中できるようになったりすれば、結果的に望んでいた「よい結果」に結びつきやすくなるものです。

心理的な拠り所、ツールとしての効果があることは、お守りなどを非科学的なこととして、興味がない人も注目すべきポイントではないかと思います。

一方で、「これを持っていれば、きっと良い結果が出る」と信じることは、「これを持っていないと、悪い結果が出る」という考えにもなりううるものです。強く信じて持ち歩いているお守りを、試験などの大事な日に忘れてしまって動揺するようなことがあっては本末転倒です。信じる気持ちが時として弱点になってしまう可能性にも、できれば注意したいものです。

◆依存が強すぎるときは「強迫神経症」などの可能性も

お守りやラッキーチャームの効果を信じて、いくつも集めているとしても、日常生活が問題なく回っている限りは、通常は精神医学的に問題視するようなものではありません。

しかし、お守りなどの「効果」が一般に科学的にはっきり説明できるものではないことはこれまで述べた通りですが、誰もが納得できる理論や裏付けがないものでも強く信じられるということは、根拠のない迷信などであっても信じ込んでしまう心理傾向は否定できません。これが強くなると、「非合理的思考」と重なる部分も出てきます。これにより生活に支障が出ているような場合は、少し注意が必要です。

例えば、ラッキーチャームなど、そのアイテムを持つと幸運が引き寄せられるといった考えに関連した考え方がエスカレートすると、誰かを呪えばその人に悪いことが起こせる、といった「呪術的思考」「魔術的思考」というような精神病性の症状に近いものになるケースもあります

また、おまじないとして何かを身に付けたり、行ったりする儀式的な行為が、自分でも非合理とわかっていてもうやめたいのにやめられなくなったりと、強迫神経症を特徴づける行為に近くなる可能性もあります。

こうした思考や行動で、日常生活に深刻な支障が出ているような場合、脳内の機能に何か深刻な問題が生じている可能性もあります。そのような場合は、精神科を受診して、治療薬などを使って対処することが大切です。

もっとも、個人だけでなく所属する特定の地域やグループ内の人の多くがそれを強く信じているような場合は、その範囲での「文化」になっていることもあります。そうした際は日常生活に少し支障や制約が出ていたとしても、非合理的なことを強く信じてしまっているのは個人の精神症状だとみなすのではなく、文化の現われであると考えることが適切な場合もあります。

以上、今回はラッキーチャームを含め、広い意味でのおまもりの効能を精神医学的な視点から解説しました。なお、効果に関する具体的な科学的な論点などに関しては、精神医学的な問題とは異なるため、ここでは特に触れていません。これまでお守りには効果がないから無駄だと考えていた方でも、「気持ちをポジティブにするツール」として試してみる価値は、精神医学的にはあるのではないかと思います

なお、お守りの類には上記のような精神症状に関連する要素があることも事実です。頻度としてはかなり稀ですが、あまりに度が過ぎていて、日常生活に問題が生じるレベルになっている場合には、ご自身や周りの方が注意していただければと思います。

文=中嶋 泰憲