Intertek Testing Servicesの調べによると、電子回路設計において、EMI(電磁妨害)/EMC(電磁両立性)のコンプライアンステストに一度でパスできる割合は約50%であり、残りの半分は、何らかの原因により不合格になるという。

その一方でIoTの普及と、互いに干渉する電子デバイスの増加により、放射ノイズの状況が複雑化し、製品をEMCエミッション要件に適合させることが難しくなってきていることから、スペクトラム・アナライザ(スペアナ)を活用するユーザーにとってのEMC/EMI適合は最重要タスクに位置づけられるようになってきた。また、コンプライアンステストの合格率を高めるためには、事前に自分たちでテストを行うプリコンプライアンステストが有効であることは知られているものの、認定されたラボでしかテストを実施できないほか、そうしたラボを利用するためには1日あたり10万円~30万円ほどのコストがかかり、かつテスト終了までに数日費やす必要もあるなど、時間とコストをかける必要があった。

EMC/EMIコンプライアンステストの合格を支援するソリューション

そうしたニーズに対応することを目指しテクトロニクス社は2018年1月に、EMI/EMCプリコンプライアンス・テストとトラブルシュートのための新たなオールインワン・ソリューション「EMCVu(イーエムシービュー)」を発表した。

  • EMCコンプライアンスの必要性

    EMCコンプライアンスの必要性 (資料提供:テクトロニクス社)

  • プリコンプライアンステストの重要性

    プリコンプライアンステストを実施することで、最終的には時間とコストの削減が可能となる (資料提供:テクトロニクス社)

同ソリューションは、USBリアルタイム・スペアナ「RSA306/600」、信号解析ソフトウェア「SignalVu-PC」、近接界プローブ、LISN(疑似電源回路網)、放射テスト・アンテナ、アンテナ用三脚、ケーブルなどで構成されている。従来のスペアナを用いた測定では、ユーザー自身が、アンテナ係数やゲイン、ケーブルの損失などを調べて計算し、何Hzのときに、どの程度の補正をするかを入力する必要があり、こうした事前準備に時間をかける必要があったほか、計測する該当規格の上限値に対し、周波数ごとに入力を行う必要があり、結果として、ユーザー自身が相応のEMCに対するノウハウなどを持つ必要があった。同ソリューションは、そうした負担を軽減することを前提に開発されたもので、SignalVu-PCのオプションである「EMCVuソフトウェア」を活用することで、専用のウィザードが立ち上がり、それに従ってアンテナや規格を選択していくほんの数ステップの作業だけで、プリコンプライアンステストを実施することが可能となる。もちろん、手動でパラメータの補正を行うことも可能なため、複雑な設定やEMCのノウハウを持たない人でも、補正を行うこともできるという。

  • EMCVuの概要
  • EMCVuのオプション群
  • EMCVuの概要と提供オプション類 (資料提供:テクトロニクス社)

サポートする規格も、ISM(industrial, scientific and medical equipment:工業、科学、医療機器)、医療用電気機器(Medical)、自動車(Automotive)、TV放送受信機/IT機器/通信機器/マルチメディア機器、家電、照明、軍事と幅が広く、地域と規格名、距離などの測定内容を選ぶと、自動でノイズの規格値などが提示されるといった簡単なものとなっている(Log表示といった細かな設定に変更を施すことも可能)。

  • EMCVuがサポートする規格

    EMCVuがサポートする規格 (資料提供:テクトロニクス社)

また、レポート作成機能も有しており、測定者の状況や測定場所の情報、被測定対象物の名称などを入れることも可能なほか、表紙や目次が自動生成されたり、編集可能なPDF、HTML、Excel、RTF、各種の画像ファイルなどで保存することができる。

測定は、本来であればQP検波などを行うべきだが、測定時間が長くなってしまうことを避けるために、最初にピーク検波で全体をスキャン。その後、問題のある周波数のみQP検波を行うといった手法で、テスト時間の短縮を図ることも可能となっている。

さらに、同ソリューションでは、被測定対象物をはずした状態で、周囲の状況を測定することで、周辺環境の外乱などを排除する形で測定結果を表示することも可能。これにより、電波暗室などがない普通のラボなどでも、擬似的に被測定対象物に対する正しい測定結果を得ることが可能になる。

テストだけでなくトラブルシューティングも支援

加えて、実際の開発ではテストを行って終わりではなく、ここから問題となる周波数のレベルを低減させるためのトラブルシューティングを行う必要があるため、同ソリューションは、そうしたニーズにも対応している。例えば、レベルターゲット機能を活用することで、測定画面で、もっとも高いピーク波形を選択して、近接界プローブをプリント基板に近づけることで、どのあたりからターゲットレベルのノイズが出ていて、それがどういった性質なのか、クロック周波数なのか、スイッチングノイズなのか、といったことを知ることができるようになる。

なお、同社では、EMI/EMCの問題への対応ニーズは、今後、国内でも増加していくとみており、EMCに携わるエンジニアに向けて、ソリューションとしてデモを交えて積極的にアピールしていきたいとしていた。

ソリューションを構成する製品各種の価格は以下のとおり(いずれも税別)。

放射ノイズ測定用プリコンプライアンス・ソリューション(PC除く)

  • EMCVUNL-SVPC:EMI/EMC プリコンプライアンス・ソフトウェア(33万6000円)
  • EMI-RE-HWPARTS:放射プリコンプライアンス・テスト用アクセサリバンドル(225万円)
  • RSA306B:6.2GHz USBリアルタイム・スペクトラム・アナライザ(53万3000円)

DC電源対応伝導ノイズ測定用プリコンプライアンス・ソリューション(PC除く)

  • EMCVUNL-SVPC:EMI/EMCプリコンプライアンス・ソフトウェア(33万000円)
  • EMI-LISN5uH:DC電源用5uH LISN(13万円)
  • RSA306B:6.2GHz USBリアルタイム・スペクトラム・アナライザ(53万3000円)
  • EMCVuのオプション類を含めた一式
  • EMCVuのオプション類を含めた一式
  • EMCVuのオプション類を含めた一式。国内では、まだ数が揃っていないため、これからアピールを進めていくとしている