東京医科歯科大学は3月12日、血液脳関門の機能を分子レベルで制御するバイオテクノロジーを開発したと発表した。

同成果は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野(神経内科)の横田隆徳 教授、桑原宏哉 特定助教らの研究グループと東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室の楠原洋之 教授らと共同によるもの。詳細は英国の学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

  • ビタミンEを結合したヘテロ2本鎖核酸(左上図)をマウスの静脈内に投与すると(左下図)、血液脳関門を構成する脳血管内皮細胞に到達した(右図) (出所:東京医科歯科大学Webサイト)

血液脳関門は、循環血液と脳の境界部に存在し、脳の働きを維持するのに重要な役割を果たすとともに、脳の疾患においては通常の機能を損なうことが知られている。

血液脳関門は認知症などのさまざまな脳疾患で治療標的となる場所であり、生体内においてその機能を分子レベルで制御するバイオテクノロジーは医療や創薬の発展に必要だが、実際に活用されているものは存在しない。

特定の分子の発現を抑制する核酸の技術は、医薬品としての臨床応用が盛んに進められており、その中でもアンチセンス核酸は最も開発が進んでいる。

今回の研究では、このヘテロ2本鎖核酸をマウスの静脈内に投与することで、生体内における血液脳関門の機能を分子レベルで制御することを試みた。ヘテロ2本鎖核酸は、DNA鎖を主鎖として、これと相補的となるRNAとの2本鎖から成る人工機能核酸だ。

まず、血液脳関門の中核を成す脳血管内皮細胞に発現する分子を標的として、デリバリー素子としてのビタミンEを相補RNA鎖に結合したヘテロ2本鎖核酸をデザインした。これを蛍光色素で標識したヘテロ2本鎖核酸をマウスの静脈内に投与すると、脳血管内皮細胞に効率的に到達することが分かったという。

次に、ヘテロ核酸を投与した後のマウス脳血管内皮細胞の標的分子の発現量を調べたところ、メッセンジャーRNAレベルと蛋白レベルの双方において低下していることが判明した。また、生体マウスの血液脳関門において、標的分子であるトランスポーターの排出輸送機能が抑制されていることも実証された。

さらに、ヘテロ2本鎖核酸を1週間おきに4回反復して投与したところ、標的分子の発現量はmRNAレベルで約76%、蛋白レベルで約89%もの顕著な低下をもたらすとともに、標的分子であるトランスポーターの排出輸送機能の抑制を増強させることにも成功したとしている。

なお、今回の成果を受けて研究グループは、ヘテロ2本鎖核酸について、アルツハイマー病などの認知症および多発性硬化症をはじめとした神経難病に対して、血液脳関門の機能制御を狙った新規の分子標的治療として臨床応用されることが期待されるとしている。