宇宙航空研究開発機構(JAXA)は13日、同機構らの共同研究グループが、スーパーコンピュータ「京」を用いた超高解像度全球大気シミュレーションにより、大気中の粒子状のチリが雲に与える影響を正確に再現したことを発表した。

この成果は、理化学研究所(理研)計算科学研究機構・複合系気候科学研究チームの佐藤陽祐氏(名古屋大学大学院工学研究科助教)、富田浩文氏らと、東京大学大気海洋研究所の鈴木健太郎准教授、九州大学応用力学研究所の竹村俊彦教授、国立環境研究所地域環境研究センターの五藤大輔氏、JAXAの中島映至センター長らによるもので、3月7日に英国のオンライン科学雑誌「Nature Communication」に掲載された。

雲のでき方や雲のライフサイクルは、大気中に存在する粒子状の物質(エアロゾル)に依存する。これまで、エアロゾルの濃度が増加すると雲も増加すると考えられていたが、近年の衛星を用いた詳細な観測により、エアロゾルが増加しても必ずしも雲は増加しないことが明らかになった。また、これまで気候予測に利用されてきた数値気候モデルは、エアロゾルが雲に与える影響を過大に見積もっていることが指摘され始めていたが、その原因は明らかではなかった。

現在では、大型計算機の発展により、エアロゾル・雲相互作用を簡略化せず、詳細に表現できるほどの空間解像度での計算が可能になったが、計算期間が数週間と短く、気候影響を評価できるほど長期間の計算はできなかった。そのため、エアロゾル・雲 相互作用を詳細に再現できる空間解像度での長期間のシミュレーションが待ち望まれていた。

このたび研究グループは、基本原理に忠実な全球大気モデルとエアロゾルモデルを結合させ、スーパーコンピュータ「京」を最大限に駆使して、14 キロメートルの水平 格子間隔という高い空間解像度を維持しつつ、従来よりも長期間である通年の シミュレーションを実現した。これにより、エアロゾルの増減に伴って雲がどのように変化するかを計算し、従来の気候シミュレーションや実際の観測結果と比較した。

従来モデルでは、エアロゾルが増加したときに全球のほとんどの場所で雲が増加しているのに対し、高解像度シミュレーションでは実際の観測と同様に、地球上の大半の場所でエアロゾルの増加に伴い雲が減少しており、エアロゾルが雲に与える影響をより正確に再現できた。また、従来の低解像度シミュレーションでは、エアロゾルが雲粒に及ぼす影響を詳細に再現できず、エアロゾルが雲に与える影響を過大に評価していることも明らかになった。

この成果は、今後の地球温暖化に代表される全球気候変動の予測結果を改善する上で重要な指針となる。今後は、より高性能なスーパーコンピュータを最大限駆使して長期間の計算を行うことで、さらに不確実性を低減した気候変動予測の実現が期待できる。