「あまおう」の栽培が盛んな福岡県宗像市では、隣接する福津市を含む21のいちご農家にIoTを使ったセンシングシステムを導入し、いちご栽培の見える化を実現している。ハウス内に設置されたセンサーで取得した温度・湿度・日射量・CO2濃度などのデータをクラウドに蓄積しWEBアプリケーション上で閲覧できるもので、施肥のタイミングや日照管理など今まで勘と経験を頼りに行っていた作業をデータに基づいて実施できるようになり、新規就農者の栽培技術向上に大きな期待が寄せられている。

  • いちご栽培のハウス

ベテラン農家と若手農家のスキルの差がいちご栽培の課題

宗像市ではいちごの他にもトマトやキャベツなどの野菜や柑橘系果物の栽培が盛んだが、いちご栽培には他の農作物にはない課題があると同市の農業施策を担当する宗像市 産業振興部 農業振興課 振興係 係長 前田誠太郎氏は語る。

宗像市 産業振興部 農業振興課 振興係 係長 前田誠太郎氏

「いちごは全国的なブランドである『あまおう』を栽培しており他の農作物に比べ所得を上げやすい農作物です。そのため新規就農者が増えていますが、ベテラン農家の栽培技術が新規就農者である若手農家全体に継承されておらず収量や品質に大きな差が出ていました」(前田氏)

その差を補完するツールとして前田氏が注目したのが、ハウス内の様々なデータを自動で収集できるIoT技術。前田氏は農業に特化したIoTセンシングサービスを複数社検討しPSソリューションズが提供するe-kakashiを選択した。

「センシングデータの取得だけでなく、取得したデータを自分の見たいグラフにして見える化できるWEBアプリケーションと、取得データの分析結果を共有するワークショップまでパッケージで提供してくれるのはe-kakashiだけでした」と前田氏はその理由を語る。

e-kakashiはハウス内にSIMを搭載した親機(ゲートウェイ)と各種センサーと接続する子機(センサーノード)で構成されており、子機に接続されている温度、湿度、土壌水分、土壌温度、CO2濃度、日射量などのセンサーから取得したデータを無線通信で親機に送信し、そのデータを親機がモバイル網を利用し約10分間隔でクラウドに送信する仕組みになっている。同市ではベテラン農家から若手農家まで21名のハウス24カ所にこれらを設置。2017年10月よりデータ収集を開始した。

  • ハウス内に設置されたセンサーノード

JAむなかたの営農指導員もデータを活用

取得したデータはスマホやタブレット等で閲覧可能になっており、センサーを設置している農家の他にJAむなかたの営農指導員も閲覧できるようになっている。営農指導員は組合員農家が収穫した農作物を販売する役割も担っており、それと並行して農業指導を行っているが、JAむなかた 営農振興部園芸課 営農指導員の竹井大喜氏はe-kakashi導入で指導の機会が増えると期待を寄せている。

JAむなかた 営農振興部園芸課 営農指導員の竹井大喜氏

「JAむなかたでは55名のいちご農家がおり、私含め3名の営農指導員が分担して対応していますが、一日で自分の担当する全ての農家に足を運ぶことはできません。しかし農業指導は土の乾き具合や温度・湿度を現地で見てアドバイスするので実際ハウスに行く必要があり、一人の農家に毎日農業指導をすることは不可能でした。それがタブレットを使っていつでも担当農家の土壌水分量や温度・湿度などを確認でき、現地に行かなくても水やりや温度調整のアドバイスがタイムリーにできるようになり農業指導の回数は増えましたね」(竹井氏)

  • タブレットでいつでもデータを確認できる