東京工業大学は、同大の研究グループが、疎水性の空間を有するナノカプセルが水中で親水性の乳酸オリゴマーを強く内包することを発見した。また、ナノカプセル内では環状の乳酸2量体の分解が著しく抑制され、さらに、この特異な内包挙動のメカニズムを解明したことを発表した。

この成果は、同大 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の草葉竣介氏、山科雅裕氏、吉沢道人准教授らと、リガクとの共同研究によるもので、2月28日、欧州の主幹化学雑誌 「Angewandte Chemie」に速報論文として掲載された。

  • (a)親水性オリゴマーの疎水性ナノ空間への内包、(b)疎水空間を有する人工ナノカプセルと(c)親水性の乳酸オリゴマーの構造

    (a)親水性オリゴマーの疎水性ナノ空間への内包、(b)疎水空間を有する人工ナノカプセルと(c)親水性の乳酸オリゴマーの構造

親水性の生体分子(アミノ酸や核酸塩基など)は水分子と水素結合を形成するため、水中では高度に安定化している。生体のタンパク質ポケットは、多点の分子間相互作用でそれらを水中で捕捉できるが、人工の分子レセプターでは水中での親水性分子の内包は困難で、とりわけバイオプラスチックに関連する乳酸オリゴマーの内包は未達成であった。

研究グループは、水中で芳香環に囲まれた「疎水性ナノ空間」が、瞬時にかつ100%の収率で「親水性の乳酸オリゴマー」を内包できることを見出した。また、内包された環状の乳酸2量体(ラクチド)は、水中での加水分解反応が顕著に抑制された。分子レベルでの詳細なメカニズムの検証から、内包体は多点の分子間相互作用(CH-π相互作用と水素結合) に基づく負のエンタルピー変化により、水中で安定化することが明らかになった。

  • (a)水中でのナノカプセル1による乳酸4量体4bの内包と(b)その等温滴定型熱量(ITC)測定

    (a)水中でのナノカプセル1による乳酸4量体4bの内包と(b)その等温滴定型熱量(ITC)測定

同研究では、従来の親水性 - 疎水性の相互作用の常識に反し、人工のナノカプセルの疎水空間による親水性の乳酸オリゴマーの捕捉に初めて成功した。また、結晶構造解析や等温滴定型熱量測定などから、詳細な分子間相互作用と内包メカニズムを明らかにした。これらの成果を基に、今後、生体オリゴマー(ペプチドなど)の高感度センシングのための分子レセプターの開発が期待できると説明している。