日本原子力研究開発機構(JAEA)は2月26日、外力が加わると組織構造が変化する「TRIP鋼」の引張力に対するふるまいを実験的に解明したと発表した。

同成果は、JAEA J-PARCセンターのステファヌス・ハルヨ研究主幹、兵庫県立大学の土田紀之 准教授、総合科学研究機構 中性子科学センターの阿部淳 研究員、京都大学のゴン・ウー任期付研究員らの研究グループによるもの。

  • フェライトとオーステナイトからなる複合組織「TRIP鋼」

    TRIP鋼の変形中に起きる相変態の概略。衝撃吸収にも優れ、自動車材料として使われており、さらなる改良が継続的に行われている (出所:高エネルギー加速器研究機構Webサイト)

TRIP鋼は、微量の炭素を含む「フェライト」と、炭素を高濃度で含む「残留オーステナイト」からなる複合組織だ。同材に外力が加わると、残留オーステナイトが「マルテンサイト」へ変態し、体積が膨張するため、衝撃吸収に優れることから、自動車の構造材料として使用されている。

しかし、さまざまな相が混在する鋼内で、残留オーステナイトからマルテンサイトへの相変態が変形中にどのように起こるかは、まだ正確にわかっていなかった。

研究グループは今回、J-PARC MLFの中性子ビームと高性能工学材料回折装置「匠」を利用し、試験片の変形試験を止めることなく、連続して中性子回折実験ができる手法を開発することで、TRIP鋼の試験片(長さ5cm)を破断するまで引っ張りながら、中性子回折を行うことに成功した。

その結果、回折データから、フェライト相とマルテンサイト相のピークが区別でき、それぞれの挙動を解析できた。さらに、マルテンサイトの回折ピーク位置から各相の格子ひずみを求め、その値からマルテンサイトの応力を得たところ、その大きさはフェライトや残留オーステナイトの応力より大きいことが分かった。

また、残留オーステナイトの体積率は変形とともに徐々に減り、マルテンサイトに変わることが分かった。しかし、内部組織形状、マンガンとケイ素の含量はほぼ同じで、炭素含量が0.2%、0.4% と異なるTRIP鋼で比較すると、外力に対するマルテンサイトと残留オーステナイトの各応力はほぼ同じであることも分かった。つまり、TRIP鋼の炭素含量の違いは相変態による強度変化に影響しないとことが明らかになった。

研究グループはこれらの成果に関して、「TRIP鋼は軽量化と衝突安全性を兼ね備えた材料として開発が進められているため、同材の理解が深まれば、それを基にした数値計算(シミュレーション)の高度化も可能になり、より優れた特性を示す材料の開発指針につなげることができる」とコメントしている。