2017年に日本法人設立20周年を迎えたAdvantech。そんな同社は今、グローバルIoTカンパニーとして、コーポレートビジョン「インテリジェント・プラネットの実現」を掲げ、さまざまなパートナーとともに、IoTを活用した社会貢献を目指した取り組みを進めている。

2018年以降、同社はどのような舵取りを行い、どこに向かっていくのか。同社日本法人アドバンテックの社長/日本地区最高責任者であるマイク小池氏に話を聞いた。

--2017年に日本法人として設立から20周年を迎えました。

マイク小池氏(以下、敬称略):私自身の入社は2012年ですが、入社から2017年までの間に事業規模は3倍、年間平均成長率(CAGR)も24%と、売り上げは右肩上がりで伸びてきており、社員数も2倍に増えました。事業拠点も東京のほか、大阪、名古屋とありますが、大阪の人員は現在、4年前の5倍に増加するなど、事業規模の拡大に併せて、拠点ごとに人員を拡充しています。

こうした事業環境の中で、感じてきたことは、顧客やパートナーの我々に対する信頼やパートナーシップを求める内容が近年、変化しつつあるということです。従来、日本のものづくりはIDM(垂直統合)型でしたが、外部の協力を得られる部分については、どんどんそうした外部の力を活用するようになっており、特に台湾の企業には、立地や技術、文化的な親和性なども含めて、信頼していただけるようになってきたと感じています。

20年前の台湾企業というと、下請けというイメージでしたが、現在、我々は産業用PC(IPC)でトップクラスのシェアを有するまでに成長し、IoTプラットフォームカンパニーと呼べる存在になってきました。そんな台湾企業と日本の企業が組むことで、グローバルな競争に打ち勝っていけるコンビができるという、大きな可能性を秘めたパートナーシップが現在出来つつあります。

  • アドバンテックの社長/日本地区最高責任者を務めるマイク小池氏

    アドバンテックの社長/日本地区最高責任者を務めるマイク小池氏

ーーでは、2017年を振り返ると、どのような年だったのでしょう?

マイク小池氏:昨年を総括すると、当初から完全なるIoTカンパニーになったと言っていましたが、1年経って、そこからさらに発展できたと思っています。

センサやCPU、チップセットの企業との連携のほか、Armとの連携も発表できましたし、SIGFOXの普及に向けた戦略的パートナーシップを締結しました。また、こうしたパートナーシップの中でも、(2017年)11月に発表させていただいた「Edgecrossコンソーシアム」の創設に加われたことは、とてもありがたいことだと思っています。

こうしたさまざまな取り組みを振り返ると、すべての側面におけるIoTのピース/パーツを具体的なパートナーシップとして具現化できた年になったと言えると思っています。また、それに併せて広報活動にも注力しました。おかげで、露出量は、2016年比で20倍に増加しました。中でもIoTを通じて地方から日本を元気にすることを目指して「Advantech IoT47プロジェクト」を立ち上げ、1年で13回ほど地方都市にてカンファレンスを開催しました。2018年も継続して行っていく予定で、その第1弾を2018年2月27日に「Advantech IoT47 in 三重」と題して、三重県津市にて開催する予定ですし、今後はさらに加速して推進していきたいと思っています。

--Advantechは、コーポレートビジョンとして「インテリジェント・プラネットの実現」を掲げ、近年活動を続けて来られました。ご自身としては、その実現に向けて、現在の進捗状況はどの程度と見ているのでしょうか?

マイク小池氏:2010年より取り組みを開始した「インテリジェント・プラネットの実現」というビジョンには3つのフェーズがあります。第1フェーズはハードウェアを組込分野を中心に提供することで、市場シェアを拡大させるフェーズです。ここは確実に成長を続けて来ていまして、IPCはトップクラスのシェアを獲得するまでに育ちました。ここはこれからもAdvantechの基本ビジネスとしてしっかりとやっていきます。

第2フェーズはIoTパートナープログラムとして提供している「WISE-PaaS」を軸に、パートナーたちとハードウェアとソフトウェアを組み合わせて活用することで、何ができるかを世の中に確実に見せていくフェーズです。そうした意味では、2018年はこの取り組みが中心となっていく年で、コクリエーション元年とも言える年になると思っています。実際に多くの企業に具体例を見せていくことができるようになり、今後、そうした機会がさらに多くなっていくと思っています。

中でも11月には中国・蘇州にて世界中からパートナーを集め、そうした具体例を見せていく「Advantech IoT Co-Creation Summit」を開催します。蘇州で開催する理由としては、昆山工場やPlus Technologyキャンパス(A+TC)などがあり、特にA+TCでは、Advantechとパートナーが協力して何ができるのかというデモを展示する環境があり、そうした部分も含めて見てもらえるためです。

そうした意味では、現在はフェーズ2の半ば、そしてフェーズ3、SIerなどが「IoTクラウドサービス」を実現していく段階ですが、その具現化の始まりといった段階だとおもっています。

実はこのコーポレートビジョンは、その実現については、30年、50年を経てもゴールがあるようなテーマではなく、あくまで無限に続くテーマなんです。そうした方向に向かって常に前進を続けることに意味があるというもので、その中で具現化されたのが現在のフェーズ1からフェーズ3までの取り組みとなります。

--そうなると2018年は2017年以上に忙しい年になる?

マイク小池氏:はい。毎日がエキサイティングで生き生きと暮らしてます(笑)。今年は成長の年であり、新たなデザイン機会が増えてくる年でもあると思っています。

ただ、BtoBのビジネスですので、開発プロジェクトがスタートしても、その年に売り上げが立つ、ということはありません。早くても1年、長ければ3年ほどの時間をかけて開発をしていく必要があります。

今、日本の市場は、非常にどこも好調で、多くの方々から設備投資を拡大する計画を聞いており、そうした流れの中でIoTやIPCを活用するプロジェクトも多数でてくることとなり、我々としても成長の機会だと認識しています。

毎年15~20%程度の成長を考えていますが、持続的に成長することが重要だと考えています。2020年に五輪開催が控え、設備投資も継続していくでしょうから、細かく戦略を立てて、日本経済全体が浮上していくことを目指して、IoTを軸とした日本のものづくり産業全体の縁の下の力持ち的な存在になることを目指したいと思っています。

また、IoT47の取り組みもそうですが、地方経済を活性化させていきたいと思っています。地方の方々が持つ、こういったことを便利にできないか、という発想に対し、アドバンテックが技術を提供する形で支援していければと思っています。

--ハードウェアは事業の基本という話ですが、期待できる市場としてはどの分野を考えていますか?

IoTということで言えば、PoCの時代は終わり、これから本格的にはじめよう、という時代に入りました。さまざまな産業分野に向けて、パートナーと協力して生み出されたコクリエイションの成果を見せて行きたいと思っています。特に、先ほども2020年の五輪開催に触れましたが、デジタルサイネージ、医療、AI、ロボット、半導体といった分野は需要が拡大すると思っています。

我々はDMSとして、伝統的な基板設計のみならず、IoTそのものをデザインできるようになったことが強みだと思っています。こうしたことがやりたい、という相談をしてくれれば、そうしたニーズにマッチしたソリューションを提供できるという状況にあります。アドバンテックを活用すれば、製品の差別化に注力し、新たなサービスの創出にリソースを集中させることができるようになることを訴求していきたいと考えています。

ーーそれでは、最後の質問です。アドバンテックの未来に向けた抱負をいただければと思います。

3つの目標があります。1つ目は日本における組み込み、IPCの分野で圧倒的なポジションを確立しつつ、それだけのニーズを受け入れられる幅広い体制を構築すること。2つ目は、No1のDMSカンパニーを目指すということ。IoTの活用でシステムが複雑化する中、1社が一気通貫でビジネスを構築するのは難しい状況となり、今、まさに転換点が訪れていると思っています。そうした中で、顧客にはアドバンテックの有する能力をフル活用してもらって、タイムツーマーケットで商品を提供できるようになってもらい、日本の製造業を世界トップに押し上げていってもらいたいと思っています。そして3つ目は、グローバルIoTカンパニーとして、フェーズ3の具現化を日本で果たすということ。日本から世界に発信できる具体的なIoTプラットフォームを活用したソリューションを打ち出すことで、日本経済が世界を牽引する支援を微力ながらしていきたいと考えています。

そうした意味では現在は東京、大阪、名古屋の3拠点体制ですが、まだまだ市場があるので、別の都市にも拠点を設けるということも、やはり顧客の近いところで支援することが重要なので、検討していければと思っています。

--ありがとうございました。

インタビューを終えて

ビジネス分野では、IoTという言葉を聞かない日はないほどだが、その多くは、ITとOTで言えば、IT側から出てきている話題であり、OT,つまりエッジのデバイス、現場の機器をどのように活用するか、という地道な話はそれほど目立っているようには見えない。しかし、IoTを活用したビジネスにおいて真に重要となるのは、エッジで、どのようにどんなデータを取得するかである。そうした意味では、エッジ側のデバイスを長年設計・製造し、さまざまな産業分野で必要とされる要件などを熟知したアドバンテックが、それをベースにボトムアップ型とも言える取り組みで進めつつ、幅広いパートナーシップに支えられているIoTソリューションは、製造現場にマッチした形で活用されていくことが期待される。そうした意味では、同社の今後の動向に注目する必要があるだろう。