現在TBSで放送中の『アンナチュラル』(毎週金曜22:00~)で、井浦新演じる中堂系が人気である。

ドラマのキャラクターの人気が独り歩きする様子は、『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンなど、韓流ドラマでよくみられ、ハマり役に出会えば、そのキャラクターとして何年も愛され続けるものなのだとは感じていた。

  • 井浦新、石原さとみ

    左から井浦新、石原さとみ

国内で言えば、NHKの連続テレビ小説『あさが来た』のディーン・フジオカは五代友厚を演じたことで、一躍スターダムに。「五代ロス」という言葉も生まれたくらいで、しばらくは「五代さま」と役で呼ばれることも多かったように思う。また『アンナチュラル』の脚本の野木亜紀子が手掛けた『逃げるは恥だが役に立つ』でも、星野源が、それまでとは違ったファンを獲得し、やはり「平匡さん」という役名で呼ばれることも多くなった。

そして、『アンナチュラル』の井浦新もまた、「中堂さん」という役名が定着し、ドラマの放送日には、「#中堂系」でさまざまなツイートが見られる。

中堂系というキャラクター

しかし、いったい中堂系にはどんな魅力があって、人気になっているのだろうか。

中堂は、主人公の三澄ミコト(石原さとみ)の勤める不自然死究明研究所、通称UDIラボで働く法医解剖医である。過去に3,000件の解剖の経験のある優秀な医師であるが、彼とチームを組まされたメンバーは、次々と辞めてしまうという事実があった。

第1話で中堂が初めて登場するシーンでも、ミコトと中堂のチームで、どちらが解剖を担当するかを決める際、ミコトがじゃんけんやコイントスで決めようと提案すると「そのクソみたいな提案いつまで続くんだ」と中堂が悪態をつくのだが、中堂が作るラボの中の殺伐とした空気が伝わってくるようだった。

とここまで書くと、誰もが惹かれるキャラクターには到底なりえなさそうに思えるのだが、第2話で中堂は、ミコトとバイトの六郎(窪田正孝)がある事件の犯人に冷凍車に閉じ込められ、池に沈められそうになったところを、池の水質のデータから居場所を突き止め、命を助けたりもする。

また第3話では、ある裁判の証人を頼まれたミコトが、女性蔑視の強い検事に「女性のきまぐれ」「すぐ感情的になる」「自己顕示欲が強い」などと侮辱され、被告人からも「私の人生、女なんかに任せられません」と言われてしまい、結果、中堂が代わりに証言台に立ち、真実を明かすというシーンもある。なんだかんだと中堂はミコトの窮地に助け船を出しているのだ。

その裁判の帰り際、さんざん「女は感情的」という発言をしていた検事を感情的にさせ、「女なんかに任せられない」と言っていた被告人から感謝されても中堂は、「ふざけるな。女は信用できねえだとクソ小せえこと言ってるから俺は駆り出されたんだ。人なんてどいつもこいつも 切り開いて皮をはげば、ただの肉の塊だ。死ねば分かる」と見栄をきる。

このシーンは、検事と被告人をぎゃふんと言わせ、視聴者にとっては胸がすくシーンでもある。それと同時に、中堂がとっつきにくい人ではあるが、倫理的にはとてもまっすぐな観点を持っている人だとわからせるものでもある。もちろん、女性蔑視もない。

『逃げ恥』の平匡についても、「この人は差別的な観点を持たない人なのだ」とわかるシーンがあって、その積み重ねでみくりは平匡を信頼し好きになるし、視聴者も平匡に夢中になった。このシーンを見て私は、中堂の人気は"ツンデレ"にあるように見えて、実は中身をしっかり見れば、彼の個人的な意味での倫理の筋が通っているところにあるのではないかと思える(ときにそれが法という倫理とぶつかるときもあるが)。

ありきたりな"ツンデレ"ではない

ミコトが中堂に心を許したのも、彼が恋人を不条理な死で失っていて、「考えたことがあるか。永遠に答えの出ない問いを繰り返す人生。今、結論を出さなければ、もう二度と、この人物が死んだのかを知ることができない。今、調べなければ、永遠に答えが出ない問いに一生向き合い続けなければいけない。そういう奴を一人でも減らすのが、法医学の仕事なんじゃないのか?」と言われたのが大きいのではないかと思われる。それは、一家心中を強いられたミコトにとっても、我がことのように感じられる話であるし、またミコトはその経験があるからこそ、「法医学」の在り方についても真剣に考えていることでも、中堂とシンパシーを感じるところなのである。

ぶっきらぼうで「クソ」「バカ」が口癖でも、なぜか中堂のことが嫌な人に見えず、ファンが増えているのは、実は自分の恋人の死への問いをいつまでも持ち続けるという感情があり、しかも法医学の知識を自分の問いのためだけに使っているわけではなく、中堂が「一人でも自分と同じ人がいなくなることを願っている」からというのは大きいだろう。しかも、UDIラボの人が困っているときは、実はちゃんと助け船を出すし、女性への蔑視が理由でぶっきらぼうなわけでもないことも法廷シーンの証言で明らかになった。そんな中堂だからこそ、ドラマに出てくる昨今のありきたりで形骸化した"ツンデレ"に辟易している人でも、受け入れられるのではないか。

ミコトは一話の最後で、「中堂さんの解剖実績3,000件と私の実績を合わせれば4500件もの知識になります。協力すれば無敵だと思いませんか?」というと、中堂が「敵はなんだ?」問うシーンがある。そこでミコトは「不条理な死」と答えるのだが、不条理な死についてとことん考え抜き、答えを出そうとしているふたりは、最初から協力者(バディ)になることが決まっていたのだと、6話が終わった時点で改めて思うのだ。


西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。