フルMVNO化の背景にはIoTの存在

なお、フルMVNO化についてはIIJや日本通信だけでなく、ソラコムの「SORACOM Air」や、さくらインターネットの「さくらのセキュアモバイルコネクト」といったサービスがすでに始まっている。各社が数十億と言われる高額の設備費を投じてフルMVNO化を進めるのは、IoTの普及が目前になっているからだ。

IoTが普及してくれば、それらをモバイルネットワークに接続する必要が出てくる。たとえば自動車を例に取ると、海外ではヨーロッパの「eCall」や、ロシアの「ERA-GLONASS」といった緊急通報システムの搭載が義務付けられはじめている。単に一国に出荷するだけなら固定のSIMでもいいが、地続きで国境を越えたり、輸出入などで国をまたぐことを考えると、書き換え可能なeSIMは必須であり、これを自由に発行できるフルMVNO化は大きな商業上のチャンスになり得るのだ。

これまで日本通信やIIJは、どちらかといえばフルMVNOのメリットをIoT化を通じて語ってきただけに、今回H.I.S. Mobileのサービスが個人向けとして提供されるのは、意外といえば意外な展開だったのだが、個人が携帯するIoT機器もどんどん増えていくことを考えれば、むしろ莫大な数になるIoT向けのeSIM書き換えシステムが十全に機能するかの、いい検証機会になるとも言える。

3年でMVNOのトップ10入りを目指す

H.I.S. Mobileの猪腰社長は「3年を目安に、MVNOの上位10社に入れるよう目指したい」とし、目標のユーザー数を50万人とした。ちなみに現在の段階でMVNOシェアのトップ10入りするには、だいたい30万ユーザーが必要になる計算だ。

エイチ・アイ・エスが1年間に扱う海外旅行者は300万人程度ということで、このうち17%前後にSIMが売れれば、概ね計画が達成できることになる。エイチ・アイ・エスは全国に約270の営業所を展開しており、販売はここを拠点に行われるという。新興のMVNOとしては、いきなり大きな販売ネットワークを持つことになり、無店舗型が多いMVNOとしては有利だ。

もっとも、3年後には現在MVNO事業でトップの楽天モバイルがMVNOからMNO化する計画だったり、先日ソフトバンクと業務提携を行ったLINEモバイルの存在など、業界の地図がどのようになっているかは、非常に読みづらい。目標を達成するには競合MVNO事業の買収など、アクティブな戦略も必要になりそうだ。

海外向けの新サービスは、価格面はもちろんのこと、技術的にも目新しいものが取り入れられており、ビジネス面はもちろんのこと、マニア的にも非常にそそられるものがある。正式リリースがまだ3カ月以上先ということもあって、きちんと決まっていない部分もあるようだが、ぜひ世界各地で実際に動作を試してみたい。