ケンブリッジ大学の研究チームは、無重力状態の宇宙空間に似た環境を航空機内に一時的に作り出した微小重力条件下で、グラフェンの物性をテストする実験を初めて行ったと発表した。同実験は、人工衛星用冷却材などへのグラフェンの応用を目指すものであるという。

同研究は、欧州におけるグラフェン研究プロジェクト「Graphene Flagship」と欧州宇宙機関(ESA)との協力体制のもとで進められているもの。

  • 航空機内での微小重力状態

    航空機内での微小重力状態 (出所:ケンブリッジ大学Webサイト)

航空機に放物線状の飛行コースを取らせることによって、機内に一時的な微小重力状態を作ることができ、これは宇宙飛行士の訓練などに利用されている。

研究チームは今回、微小重力状態が23秒間続く環境下でグラフェンの熱伝導特性などをテストする実験を行った。ループヒートパイプと呼ばれる熱輸送デバイスにグラフェンを用いて、人工衛星向けの放熱・冷却用とに応用することを目指している。

ループヒートパイプは、毛細管現象を利用して熱源で奪った熱を放熱部に輸送する流体熱輸送デバイスであり、モーターなどの可動部品を使わずに流体を移動させることができるという特徴がある。主要部品は金属製の芯(ウィック)であり、この部分で流体が気化する仕組みになっている。

今回の実験では、金属芯をグラフェンでコーティングすることによって、ループヒートパイプの効率が向上することを検証した。

効率向上の理由は大きく2つあり、1つはグラフェンの特性である優れた熱伝導率によって、高温熱源から金属芯への熱の輸送効率が向上するためである。もう1つは、グラフェンコーティングの多孔構造によって、金属芯と流体の相互作用が増強して毛細管圧力が高まり、流体の移動速度が上がるためであるという。

研究チームは今回の実験について、有望な結果が得られたため、今後は宇宙空間向けにグラフェンのコーティング最適化を進め、実際の人工衛星や宇宙ステーションに搭載した実験を行うことを目指すとしている。

  • 実験の様子