その名前がローマ神話の女神アウロラに由来するというオーロラは、北極や南極に近い高緯度地方の高度100キロメートルあまりの空で、光のカーテンが揺れる現象だ。色は緑だったり、赤っぽかったり。古代ギリシャでは天の割れ目と考えられていたという。

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    図1 脈動オーロラ。数秒から数十秒おきに明滅する。(提供 国立極地研究所/Aurora 3D project)

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    図2 探査衛星「あらせ」の観測イメージ図。青い細線が磁力線を表している。(提供 ERG science team)

オーロラが発光する原理そのものは分かっている。太陽から飛んでくる電気を帯びた粒子は、地球を取り巻く磁気のバリア、つまり「磁力線」に絡みついて宇宙を行ったり来たりしている。このままでは地球に近づけない。ところが、このうちたとえばマイナスの電気を帯びた「電子」が、なにかをきっかけに高度100~150キロメートルくらいに流れ込んで、大気の成分である酸素や窒素にぶつかると、酸素や窒素のエネルギーが一時的に高まる。そして、酸素や窒素がもとの状態に戻るときに放出するエネルギーの強さに応じて、いろいろな色の光が出る。これがオーロラだ。

もっとも有名なのは、光のカーテンが揺れる「ディスクリートオーロラ」と呼ばれるタイプだろうが、このほかにも、高い高度に形のはっきりしない発光が広がる「ディフューズオーロラ」や、今回、東京大学の笠原慧(かさはら さとし)准教授らのグループが研究に取り組んだ「脈動オーロラ」がある。

脈動オーロラは、その名のごとく、脈拍のように明滅を繰り返すオーロラだ。カーテンのようなはっきりとした形をとるのではなく、差し渡し10~1000キロメートルほどの斑点状に、ボーッと緑っぽい光が広がっている。この天の斑点が、数秒から数十秒の周期で明るくなったり暗くなったりする。ということは、この周期で、磁力線に沿って大量の電子が低高度まで流れ込んできているはずだ。では、この周期を生み出す元は何か。じつは、その点については、宇宙の磁力線に絡みついて移動する「コーラス」という名の波動が原因だと分かっていた。コーラス波動の強さの脈動とオーロラの明滅とが一致していたからだ。

だが、これではまだ科学者は満足しない。コーラス波動の脈動で電子の流れの強弱が生まれ、その電子がオーロラの脈動現象を生み出しているはずだ。コーラス波動と脈動オーロラに関係があることは分かっていた。しかし、そこに、ほんとうに電子の流れの強弱が介在しているのか。たまたまコーラス波動とオーロラの明滅が一致していただけではないのか。かつて社会学者のロバート・マートンは、科学者の規範のひとつに「健全な疑い深さ」を挙げた。過去の研究に問題点や間違いがないかを徹底的にチェックし、もし不足や改善すべき点があれば、その欠を埋めて、より完全で強固な知識に近づける。笠原さんらがつかんで論文で発表したのは、コーラス波動で電子の流れの強弱が生まれている決定的な証拠だ。

利用したのは、2016年12月に宇宙航空研究開発機構が打ち上げた探査衛星「あらせ」が、2017年3月末に観測したデータ。宇宙空間で、電子が磁力線にどのように絡みついて移動しているのかを、細かく調べられるのが特徴だ。電子は、ある特定の磁力線に沿ってらせんを描きながら進んでいく。ポイントは、そのらせんの形だ。あまり大きならせんを描くと、地球近くの磁力で跳ね返されて、それ以上は地球に近づけない。小さならせんで磁力線にぴったりくっつくようにまっすぐ進んでいく電子は、地球の磁力を突破して低高度にまで侵入し、オーロラを発光させる。従来の観測では、このらせんの巻き方の大小を区別できなかった。だから、コーラス波動と電子の流れの間に関係を見つけることができなかった。

笠原さんらは、「あらせ」のデータから「小さならせん」の電子だけを取り出し、その流れの強弱を調べた。すると、この強弱が、コーラス波動の強弱と一致していた。ふだんは、「小さならせん」の電子はあまりないのだが、コーラス波動が強まって電子の群れと衝突すると、電子のらせんが乱れ、その結果、「小さならせん」を描く電子が増える。それが地球上空の低高度にまで侵入し、オーロラを光らせる。これで、「コーラス波動→電子の流れの強弱→脈動オーロラの明滅」が欠落なくつながったことになる。

笠原さんは、「今回の研究で、従来から推定されていた脈動オーロラのしくみについて、初めてその証拠が得られた。ただし、この結果だけで、そのしくみがすべて説明できたわけではないかもしれない。今後も観測を重ねていきたい」という。まさに科学の「健全な疑い深さ」だ。

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