AppleがApple Storeで実施している無料の学習講座「Today at Apple」のセッション「Music Lab」に参加してみた。「オリジナリティあふれるサウンドを作ろう」と題されたこのセッションでは、英国のスタートアップ企業「ROLI」が開発・販売を手がける新世代の電子楽器やAppleの音楽制作アプリ「GarageBand」を使ってオリジナルの楽曲を作っていく。

  • Wu-Tang ClanのRZA

セッションの冒頭、スタッフから、この時間、どんなことをやっていくのか説明があったのち、アメリカのヒップホップグループ「Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)」のリーダーであるRZAのメッセージビデオを参加者全員で視聴。RZAは音楽家としてだけでなく、役者としての顔を持つ。ジム・ジャームッシュやクエンティン・タランティーノの作品などに出演したことでも知られている。このセッションはRZAがキュレーションを手がけており、ビデオでは得られたインスピレーションをどうアウトプットしていくのか、表現者としてどんなことを大切にすべきかといったことが語られ、昨年、Wu-Tang名義でリリースしたアルバム『The Saga Continues』の音源がROLIの製品「ROLI BLOCKS」向けのサウンドパックとして提供されていることが明らかにされた。

  • ビデオでは、RZAのサウンドの秘密が明かされた

RZAは人の心を揺さぶるアーティストとして3つのことを学んで欲しいと説く。一つ目は「自分の音階を把握すること」、二つ目は「オリジナルなサウンド作りをすること」、三つ目は「常に実験的な試みをすること」なんだそうだ。このうち、「自分の音階を把握すること」がどういうことなのか分りづらかったが、それを見つけると、自分の表現もきっと見つかるそうなのだ。ちなみにRZAは、秘密にしてるがAマイナー(イ短調)が好みだとのことだ。

  • iPad ProとApple Pencilで思いついたことを「メモ」アプリにまとめて、曲の構想を練る

さて、それではiPad ProとROLIの製品を使って曲作りに……という展開なのかと思ったが、意表をついて、まず手にして欲しいと言われたのはApple Pencilだ。何をするかというと、iOS標準アプリの「メモ」に曲のイメージや構想を書き留めていくというものだった。誰にどんな曲を聞かせたいのか、どんなことにインスパイアされたのかなど、思いついたことをApple Pencilで書き込んでいく。それがある程度纏まってから曲のイメージ作りに入っていくのだ。成る程、この作業には合点がいく。例えば、明るい雰囲気にしたいなら調性はマイナー(短調)よりメジャー(長調)がにしたほうが良いだろう。AマイナーにするかCマイナーにするのかは好き好きかもしれないが、歌う人によっては、ある音から上の音域が出ないことがある。となるとキーを下げなければならないが、実はキーを上げ下げすることでも曲の雰囲気は少し変わる。なので「誰が歌うのか」は意識してキーは決めたほうが良い。RZAが言いたかったのはこういうことだったのではないだろうか。

そしていよいよ曲のスケッチを元にROLI BLOCKSを使ったサウンドメイキングに突入する。

「ROLI BLOCKS」の核となるのは「Lightpad Block/Lightpad Block M」というタッチセンサーを搭載したコントロールモジュールだ。これだけでは音は出ず、iOSデバイスとBluetooth接続し、音源部分iOSアプリ「Noise」を制御することで曲作りができるようになる。この日はiPad Proにインストールされているものを利用した。NoiseはLightpad Block/Lightpad Block Mがなくても単体で動作し、単音、和音はもちろん、リズム楽器の演奏も行える。ただ、ROLI製品独特のタッチ操作の多くは使えなくなるので、やはりLightpad Block/Lightpad Block Mか、後述する「Seaboard」があったほうがベターだ。NoiseはiPhoneにも対応しているが、視認性はiPadに譲るところがあるので、より快適な環境で作業を進めるならiPadをチョイスしておきたいところだ。

  • 「Lightpad Block」からiPad Proにインストールされた「Noise」アプリを演奏できる

Lightpad Block/Lightpad Block Mは、表面を押す速さ、左右のスライド、上下のスライド、押し込む動作、離す動作の5つのジェスチャーに反応し、音楽を奏でられる。Lightpad Block MはLightpad Blockの表面のタッチをよりソフトに仕上げ、押し込んだときの感度を向上させるなど機能強化が盛り込まれている。NOISEアプリには、100を超えるサウンドが収録され、ループを録音することもトラックメイキングも簡単に行える。ROLI BLOCKS発売前、ROLIは先述の「Seaboard」という鍵盤楽器状のコントローラーを販売していた(現在は第二世代のモデルが販売されている)。Seaboardも5つのジェスチャーに反応し、これまでの鍵盤楽器ではできなかった独特の表現を可能としている。

  • 鍵盤楽器状のコントローラー「Seaboard」からも「Noise」アプリを演奏可能

Seaboardでは、アコースティックベースやサックス、チェロなど様々なスタイルの表現ができるが、ある程度の鍵盤楽器の演奏能力が必要となる。ROLIは「誰でも使える楽器を」提供するのを目標としているので、Seaboardのコンセプトはそのままに、ROLI BLOCKSの開発に着手するという運びに相成ったというわけだ。

  • 「楽器」を触っているというよりiPhoneを弄ってる感覚に近い

筆者も実際に触ってみたが、所謂「楽器」を触っているという気があまりしない。タッチ操作がメインとなるので、iPhoneやiPadを使っているほうが感覚としては近いのだ。押し込む動作については、iPhoneの「3D touch」と一緒だなあと感じた。

Lightpad Block/Lightpad Block Mについては、音楽的な知識は殆ど要求されない。「外れた」音を弾けない構造になっているので、触っていれば勝手に音楽のようなものが出来上がるというわけだ。

自分だけ夢中になっていては取材にならないと、ハッとして、他の参加者の進捗状況を伺ってみたのだが、皆、没入しているという様子。む、こうではないという表情で作業する人もいれば、え?こんなことできるの?と驚きの表情を浮かべる人もいたりとさまざまではあったが、共通していたのは「音楽を楽しんでいる」ということだった。

  • 皆、夢中になって作曲を楽しんでいた

熱中している参加者にスタッフからTIPSが伝授される。NOISEアプリはGarageBandと連携が可能なのだ。GarageBandからAudio Unitプラグイン経由でNOISEのサウンドを直接取り込める。これで、GarageBand上にトラックを作成し、編集も行えるのだ。すでにGarageBandを使っているという人には、新しい音源としてNOISEアプリを追加できるということになる。

セッション最後は、出来上がった曲の試聴。最初に考えた曲のスケッチ通りに完成できた参加者の満足気な表情が印象的だった。Today at Appleでは、Music Labのほか、さまざまなセッションが用意されている。一番簡単なところからはじめたいというなら、「Quick Start」、上級者には「Studio Hours」や「Pro Series」といったように、スキルに応じて受講できるのが特徴だ。これは、というセッションを見つけたら、Today at AppleのWebページ、またはiOSの「Apple Store」アプリから申し込んでみよう!