研究者が科学と社会をつなぐ社会活動をしたいと思っても時間や人的サポートがないと実際にはできないと8割の回答者が考え、またほとんどの研究者が何らかの社会活動をしていてもその内容は組織の一員としての参加が多く、「市民との協働」と言える積極的活動は少ない―。こうした実態が、科学技術振興機構(JST)が実施した意識調査で明らかになった。研究者の社会活動を促進するためにも研究環境の改善が重要で改善に向けた施策の検討が求められる、と言えそうだ。

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    図1 社会活動の阻害要因に関する回答

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    図2 回答者による「社会活動」の内容に関する回答

この意識調査はJST「科学と社会」推進部(調査実施当時・科学コミュニケーションセンター)が16,000人の研究者を対象に「WEBアンケート方式」で実施し、回答があった約2,900人の意識を分析した。調査の目的は、現行の「第5期科学技術基本計画」で「研究者が社会と向き合うことが重要」としていることから研究者の意識の現状を明らかにすること。回答者の年齢は40歳台と50歳台がいずれも28%前後、30歳台は21%、20歳台は3%で、年齢層は高かった。80%以上が男性で、89%が常勤研究者。分野別では60%以上が理学、工学、医学・歯学・薬学など自然科学で35%が人文・社会科学だった。

調査結果を分析したところ、社会活動は「必要」「やや必要」と答えた研究者はそれぞれ62%、30%でほとんどが社会とつながる活動の必要性を認識していた。実際に活動している研究者も「年に複数回」「1~3年に1回 」がそれぞれ45%、38%で、「直近5年はない」「全くしていない」を合わせた9%を大きく上回った。この数字はほとんどの研究者が「自分は何らかの形で社会活動している」と考えていることを示している。

ただし、社会活動の内容を聞くと、「所属機関の一般公開、オープンキャンパス」「出前授業、公開講座、シンポジウム、セミナー」がそれぞれ80%以上と多く、「市民会議、タウンミーティングなどでの科学的助言」「市民との協働調査・研究」といった研究者個人の積極的参画が求められる活動は17、18%にとどまっていた。

また、「活動の阻害要因」についての質問では「時間的余裕がない」「人的なサポート体制がない」ことを挙げた回答が「そう思う」「やや思う」を合わせるといずれも80%を超えた。「活動の促進要因」についても「時間的余裕」と「人的サポート」の要因を挙げた回答が80%を超えており、この2要因が、研究者が社会とのつながりを深めるために極めて重要であることがはっきりした。

このほか調査結果の分析では、「研究者コミュニティと社会の双方向性の高い活動」をしており、かつ「新しいものの見方や社会の新しい価値観を見出すことができた」「新しい研究テーマへの着想を得ることができた」といった「社会活動に参加した意義」を具体的に認識している研究者を「積極的な共創活動に取り組む研究者」と定義。その定義に当てはまる約590人について分析した。

その結果、自然科学系では工学が26%で、全回答者での18%と有意差がはっきり出た。学問分野の性格から「積極的な共創活動に取り組む研究者」は「社会実装」をより意識していると解釈できそうだ。またこれらの「積極的な研究者」のほとんどが、社会活動の目的について「社会的課題の解決」「社会実装につなげる」などとした項目を挙げていた。

調査を担当したJST「科学と社会」推進部の渡邉万記子さんは「研究者も社会の一員として、その活動を通した社会との関わりが重要な時代になっています。調査結果から研究者は多様な活動をしているものの、前回調査(2012年)(※)と同様に時間と人的サポートの不足といった阻害要因が依然解消されていない現状を把握することができました。この結果がより有意義な施策検討につながればと思います」と話している。

参考:※前回調査(2012年):「研究者による科学コミュニケーション活動に関するアンケート調査報告書」(2012)科学技術振興機構科学コミュニケーションセンター参照

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