リコー 社長 兼 CEO 山下 良則氏

リコーは昨年4月に発表した3カ年の第19次中期経営計画に取り組んでいる最中だが、2月6日に行われた方針説明会でリコーの社長 兼 CEOの山下 良則氏は、2018年度からの2年間の成長戦略を「挑戦」として、より具体的な方向性を示した。

中計では2017年度の1年間を、成長を実現するために足腰を鍛えて実行力を磨く「再起動」のフェーズとしていた。一方、今回の説明では2019年度までを「挑戦」と位置づけ、さらに2022年度までを、持続的成長とさらなる発展を確実なものにする「飛躍」と定めている。

財務目標も明示しており、2019年度は中計の売上高2兆2000億円、営業利益1000億円、営業利益率4.5%、ROE6.9%、フリーキャッシュフローで1000億円の目標を維持する。これに加えて新たに発表した2022年度の目標は、売上高2兆3000億円、営業利益1850億円、営業利益率8.0%、ROE9.0%以上、フリーキャッシュフローで2500億円を目指すという。同社の営業利益は、過去最高が2007年度の1815億円であり、2022年度の計画は実に15年ぶりの最高記録を見通したものだ。

山下氏は昨年の中計発表時、「過去のマネジメントとの決別」という言葉を用いて「これまで、社会と約束した中期経営計画の目標を達成できないのは、経営に問題があったといわざるをえない」と指摘。2017年度を「再起動」の1年に位置づけてきた。

過去との決別では、「マーケットシェア追求」と「MIF(複合機の設置台数)拡大」「フルラインアップ」「直売・直サービス」「ものづくり自前主義」という5大原則を見直すとともに、オープンな体質に生まれ変わることを目指してきた。

具体的な構造改革施策として、ものづくり自前主義の見直しや直販・直サービスの見直しによる「コスト構造改革・スリム化」、社内デジタル革命を打ち出した「業務プロセス改革」、自社リソースで成長可能な事業、成長性があるがリソース不足の事業、成長が見込めない事業を、聖域を設けずに分類する「事業の選別の徹底」の3点から取り組んできた。

コスト構造およびスリム化については、生産拠点の統廃合、開発機種の絞り込み、本社・バックオフィスのスリム化を実施し、北米の販売体制の最適化を除いて、2017年度で一定のめどがついたという。一方の業務プロセスの改革は、シェアードサービスによる生産性向上、新機能搭載機拡充による保守プロセス改革、生産自動化によるコストダウンを実施した。

ただし2018年度以降も継続して取り組み、とくにAIやロボィクスを活用したデジタル革命を実施する考えを示した。また、事業の選別の徹底では、電子デバイス事業の株式譲渡、三愛観光の株式譲渡、リコーインドの支援方針変更を行い、今後も継続的に事業検証を行っていく姿勢をみせた。

山下氏は「再起動」の1年の振り返りとして次のように総括する。

「成長の妨げになるすべての要因を排除することに取り組んできた。2016年度末には10万5600人の正社員数は2017年度末には10万人を下回ることになる。また、売上原価率を引き下げ、2022年度には売上原価率を55%を目指す。販管費は、この1年で2ポイント減少。従業員1人あたりの売上総利益は、2015年度第3四半期を100とした場合、2017年度第3四半期では105にまで引き上げた。決めたことをきっちりやることは大切だが、稼ぐ力をどれだけ高めたが大切である。その点では、2020年度に向けて一層の努力が必要である」(山下氏)

成長戦略は「0」「1」「2」

1人あたりの売上総利益が5%上昇したという着実な"稼ぐ力"の向上が成果として表れた。こうした成果をもとに打ち出したのが、「挑戦」と呼ぶ新たな成長戦略になる。基本戦略としては「強みに立脚した事業展開」と「オープンな経営スタイル」「メリハリのついた成長投資」の3点を掲げる。

「強みに立脚した事業展開」では、複合機をはじめとして、140万社、440万台に達するデバイス資産や顧客基盤、それをカバーする販売、サービスネットワーク、デバイスに組み込まれたプリンティング、キャプチャリング技術などを活かして、「オンデマンド、マスカスタマイゼーションという時代の要請に、リコーの強みで応える」とした。

ここでは既存の複合機を進化させ、社内オペレーションを磨き、顧客基盤を固める「成長戦略0」、商用印刷や作業印刷などにおいて、プリンティング技術の可能性を追求し、顧客基盤を拡大する「成長戦略1」、オフィスサービスや産業ブロダクツ、Smart Vision、デジタルビジネスといった領域において、顧客基盤にリコーならではの付加価値を乗せて、オフィスと現場をつないだ提案を行う「成長戦略2」という、3つの切り口から展開する。

成長戦略0となるオフィスプリンティングの売上げ構成比は2016年度実績で53%を占めていたものの、これを2022年度には39%まで引き下げる。一方で成長戦略1、2については2019年度までにそれぞれ1000億円のM&A投資を行う。成長戦略1では2016年度に12%だった構成比を20%に拡大し、成長戦略2についても2016年度の24%を2022年度には31%まで拡大して、事業構造を変える計画だ。

野心的な成長戦略だが、成長戦略1では「プリンティング技術の産業革新への挑戦」を掲げる。紙へのプリント以外に、フィルム、布、建材、職湖などの紙以外にもプリントする「表示する印刷」に加えて、プリンティング技術によって新たな価値創造に取り組む「機能する印刷」に取り組む姿勢をみせた。

機能する印刷とは、リコーが持つ高分子材料設計やインク処方設計などの「材料設計技術」、微粒化や微粒子分散などの「粒子化技術」のこと。ほかにも、レーザー書き込みや粉体制御、成膜などの「電子写真プロセス」、インク吐出、吐出位置制御、均一造粒、積層技術などの「インクジェットプロセス」によって、3D造形のほか、二次電池への応用、細胞チップ、ヒト組織モデル、吸引薬などの新たな領域への応用にも踏み出すことを示した。

一方の成長戦略2では、よりビジネスメソッドに寄ったソリューションの展開だ。中小企業を中心としたオフィスのワークフロー改革や、大手企業を中心としたオフィスのコミュニケーション戦略をベースにしており、会議支援サービスを利用した会議の生産性向上、コンシェルジュサービスや社会インフラ点検などの価値を生むワークプレイスへの展開を進める。