東北大学は、同大の研究グループらが、鼻の嗅覚神経で「におい」を感知することに役立っている「嗅覚受容体」が、ヒトやマウスなどで膵臓のインスリン分泌細胞(β細胞)にも存在していることを発見するとともに、オクタン酸というにおい物質が、この膵臓β細胞にある嗅覚受容体のひとつ(Olfr15)によって感知されると、血糖値が高いときにだけインスリン分泌が促進し、血糖値が改善することを明らかにしたと発表した。

この成果は、東北大学大学院 医学系研究科 糖尿病代謝内科学分野の山田哲也准教授、宗像佑一郎医員、片桐秀樹教授らの研究グループと、同 医工学研究科病態ナノシステム医工学分野の神崎展准教授、大阪大学大学院医学系研究科 幹細胞制御学分野の宮崎純一教授らとの共同研究によるもので、1月24日、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

  • マウスの実験において、におい物質の経口での投与で血糖値が改善された(出所:東北大Webサイト)

    マウスの実験において、におい物質の経口での投与で血糖値が改善された(出所:東北大Webサイト)

鼻の神経に存在する「嗅覚受容体」は、空気中のにおい物質を感知する働きを担っている。

このたび研究グループは、血糖値を低下させるホルモンであるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞に、複数の嗅覚受容体が発現していることを発見した。そのうちのひとつである「嗅覚受容体 15(Olfr15)」に着目したところ、この受容体ににおい物質であるオクタン酸と呼ばれる脂肪酸が作用すると、インスリンの分泌が促進されることがわかった。

さらに、このインスリン分泌の促進は、血糖値が高くなっている時のみに生じることが、マウスなどを用いた研究で明らかになった。

この発見により、インスリン分泌を促進する新しい仕組みが明らかとなった。様々な原因で血糖値が上昇する疾患である糖尿病は、日本を含むアジア民族では特にインスリン分泌の低下が原因として重要であることが明らかになっている。

  • オクタン酸が嗅覚受容体を介してインスリン分泌を増やす仕組み(出所:ニュースリリース※PDF)

    オクタン酸が嗅覚受容体を介してインスリン分泌を増やす仕組み(出所:ニュースリリース※PDF)

今回、発見された膵臓β細胞の嗅覚受容体の活性化によるインスリン分泌の促進は、日本における糖尿病治療のニーズに合致したものと考えられる。さらに、この仕組みは、血糖値が低い時にはインスリン分泌を促進しないことから、低血糖を起こさずに血糖値を下げる新しい糖尿病治療薬の開発につながることが期待される。