富士通クライアントコンピューティングが、ノートPC搭載キーボードの大幅な改良に乗り出した。目指したのは「確実に書けるキーボード」。そして、「モバイルノートだからといって妥協を許さないキーボード」の実現だ。

そのキーボードが、2017年11月から販売を開始している「LIFEBOOK UH/B3シリーズ」に搭載されている。13.3型としては世界最軽量となる748gを実現した同製品において、キーボードにこだわりぬいたのは、品質を追求する同社の意地でもあった。そして、このキーボードの生産を担当しているのは、富士通の子会社である富士通コンポーネントである。同社がマレーシアのジョホールに持つ生産拠点において、日本品質を維持したモノづくりが進められている。

富士通クライアントコンピューティングは、なぜ、キーボードにこだわったのか。そのこだわりはどれほどのものなのか。マレーシアの生産拠点にまで出向き、その狙いと意味を探った。2回にわたって掲載する。

  • LIFEBOOK UH/B3シリーズ

入力されない「文字抜け」が発生

2017年7月に、島根県出雲市にある島根富士通を取材で訪れたときのことだった。

仕事で使っていた世界最軽量モデル「LIFEBOOK UH75/B1」で、入力されない文字が多発していたことを、直接、開発者に告げた。押しても、入力されないとを「文字抜け」と呼ぶ。同機では、「抜ける」状態が多発していたのだ。

ざっくばらんなお酒の席ということもあって、「これでは記者会見に持ち込んで使うことはできない」と開発者に繰り返し訴えた。繰り返すのは酔っぱらいの悪い癖だ。

  • LIFEBOOK UH/B3シリーズのキーボード部

筆者は、原稿を執筆する際に、カナ入力を用いている。いまや少数派の入力方法だ。

LIFEBOOK UH75/B1では、世界最軽量を実現するために、キーボードの底面フレームを薄型化するとともに、キーボードを受けるカバーを不要とするなど、新たな構造を用いている。そして、強度を補完することと、キータッチ時の剛性を高めるために、キーボードの裏側に穴を開け、72本ものネジで固定するという手法を採用している。72本のネジの位置は、何度もシミュレーションを行いながら、適切な場所を導き出したという。

この話を聞いていただけに、ネジの位置のシミュレーションが、多数派のローマ字入力向けに設定されているため、カナ入力で使う一部のキーで「抜ける」状態が発生していたと思っていた。実際、入力されない文字は、右側にある濁点や半濁点が多く、それらはローマ字入力ではあまり利用されない。

しかし、話を聞いてみると、ローマ字入力に最適化した結果によるものではなかった。同席していた島根富士通の社員はローマ字入力派であるが、やはり同様に、「抜ける」場合が多発していたという。

開発者の説明によると、LIFEBOOK UH75/B1のキーボードでは、浅くても押し下げ感が得られるように、クリックを感じやすいチューニングにしていたという。つまり、ネジ位置はまったく関係がない話だったのだ。

「LIFEBOOK UH75/B1は、キーを手前から奥へと滑らせるようタイピングするのに最適化したチューニングとしていた。そのため、キーストロークを持ったデスクトップPCのキーボードに入力するように、深く突くタイピングがしにくいものとなっていた」とする。

タイピング慣れした人ほど「抜ける」状態に

特に、突くようにキーの「端」を押してしまうと、「抜けやすい」ことが多かったのだ。言い換えれば、人差し指で、キーの真ん中を確実に押すような入力方法であれば「抜ける」ことが少ないともいえる。

そうした説明を聞いて「抜ける」キーを改めて見てみると、小指で押すキーが多いことに気がつく。濁点、半濁点のキーも、小指で入力するキーだ。小指ではなかなかキーの真ん中を打ちにくい。普段、キングジムの「ポメラ」も多用しており、キーピッチが異なるデバイスをいろいろと利用していると、デバイスによっては、どうしてもキーの端を打つケースが増えてしまう。つまり、タッチタイピングに慣れた人や、様々なPCを使っている人ほど、抜けやすいキーボードになっていたともいえる。

この課題は、LIFEBOOK UH75/B1を利用していた何人かのライター、編集者にも共通的に聞かれ始めていたが、そうした声が顕在化する前に、富士通クライアントコンピューティングでは、すでにキーボードの改良に取り組み始めていたところだった。

それは、開発部門を統括する仁川進執行役員が、ひと足先にキーボードの改良を指示していたからだ。そこには、富士通コンポーネントが製品化し、高い評価を得ているLibertouchの操作感を、ノートPCのキーボードに継承するという決断が大きく影響していた。