代表取締役社長に樋口泰行氏が就任して以降、パナソニックの社内分社であるコネクティッドソリューションズ社は働き方改革とダイバーシティを猛烈に推進している。

中でも重要になってくるのが、社内で働く従業員がこれまで培ってきた文化や意識を変えていくことだ。だがこれまで、大阪の製造業としてものづくり一筋に取り組んできた従業員が、東京を中心としたB2B主体のビジネスへとマインドを切り替えるのは容易なことではない。

そうした社内の意識改革に、パナソニックはどのような考えを持って取り組んでいるのだろうか。コネクティッドソリューションズ社の常務 営業推進本部 本部長 ダイバーシティ推進担当の山中 雅恵氏と、常務 人事センター 所長の大橋 智加氏に話を聞いた。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務 営業推進本部 本部長 ダイバーシティ推進担当 山中 雅恵氏(左)と、常務 人事センター 所長 大橋 智加氏(右)

【特集】変わる、パナソニック。

2017年4月、前日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏がパナソニックに舞い戻った。彼が担当するのはB2B領域のパナソニック コネクティッドソリューションズ。顧客の要望に合わせた製品づくりを得意としていた同社のB2B部隊だが、時代の変化から、もはや「ただの下請け」では生き残ることは出来ない。「どうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけない」と話す樋口氏の覚悟、そして変わりゆくB2B部隊の今を追った。

「昭和のおっちゃんの会社」からの脱却

IBMやマイクロソフトという外資系企業、住設メーカーで日本企業のリクシルを経て、2017年7月にパナソニックに入社した山中氏は、入社直後のイメージが「昭和のおっちゃんの会社」だったと話す。

「(社員に)質問すると『過去からこうやっていた』という回答の人が多いし、『従来よりも良くなった』という感想を持てても、『競合より勝っているか』『顧客が満足しているか』という視点のない人が多い。目線が内向きになっている」(山中氏)

一方で長年パナソニックに在籍している大橋氏は、旧来のパナソニックの風土について「良いものづくりさえしていればいいという考え方が主流だったかもしれない」と話す。高度成長期以降「いいものを安く作ること」を最も重視する価値観の下にすべての事業が動いており、昨今のような、とりわけB2B事業で最も重要な顧客の声を聞き取るといった体制が機能しきれていなかったというのだ。

もう一つ、大橋氏は「上司が絶対的な存在に近く、若い世代が自由にものを言いづらかった。端的に言えば風通しが悪かったかもしれない」と話す。

そうした状況を見て山中氏は、「もったいない。社員一人ひとりは優秀なのだから、環境を変える後押しさえすれば、実力をもっと発揮できる企業になるのではないか」と感じたという。樋口体制で臨む働き方改革は、単なるワークスタイル変革ではなく、「約100年の歴史の中で社員に根付いた閉鎖的な価値観を変える」という狙いがある。

制度は問題なし、だが「価値観が古い」

なぜ環境の変化をすること=価値観の変化なのか。

山中氏によれば、パナソニックは過去に在籍していた企業と比較しても「制度面ではダイバーシティに代表される"自由な働き方"を支援できるような体制が整っている。ただ、価値観に起因する徹底度合いが足りない」と感じた。

具体的な社内課題は3点。1つはダイバーシティの達成に向けてKPIを設定し、それを必ず達成するという仕組み上の問題。2つ目は組織の末端にまで「ダイバーシティを推進する」という意識が浸透していないこと。そして3つ目は、トップのダイバーシティへのコミットメントにムラがあり、制度面での環境は整っていたにもかかわらず、取り組み度合いに波があったことだ。

これらの課題を解消するため、山中氏や大橋氏が現場の声を聞く「ダイバーシティ推進の全国キャラバン」を実施。そこで集めた意見を樋口氏に共有しながら、ダイバーシティ推進を確実にするためのサイクルを回しているという。

ただ、製造業ならではの「技術者に男性が多く、男性比率が圧倒的に高い」という慢性的な課題がある。周囲に女性が少ない職場で長年勤めている人に対して、急に「ダイバーシティ推進のため意識を変えよう」と語りかけても難しい側面がある。実際、山中氏がキャラバンでヒアリングした中でも「女性の部下に子供ができた時、どう話をすればいいのか分からない」という意見があり、「指針」よりも「具体的な対処法」を現場は求めがちなようだ。

一方で山中氏はこのケースに対し、「女性の出産に関して、産後すぐに職場復帰する人がいれば、長く育児休暇を取る人もいる。個々のニーズに応える制度は整っているにもかかわらず、本人がやりたい方法を選び、周囲がそれを前向きにサポートできない」という個別対応が求められることを指摘。こうした選択肢があることを丁寧に説明することで理解を深めたい意向だ。

ダイバーシティ推進の本質は、女性が働きやすい会社、男性優位という片翼の視点だけでなく、多様な視点を取り入れられる会社に進化することで、企業競争力にも繋がる点にある。「ダイバーシティの推進は開始当初こそ華々しいが、実は一朝一夕で実現できるものではない。KPIを回し続けてしつこく継続するしかない」(山中氏)という、長期的な視野に立って実現に向けた取り組みを進める構えのようだ。