理化学研究所(理研)は、毛を取り囲む皮膚の付属器官(毛包)の細胞を体外から観察するin vivo発光イメージング法を確立し、生体ラットを用いた継続的な毛周期モニタリングに成功したと発表した。

同成果は、理研 ライフサイエンス技術基盤研究センター 細胞機能評価研究チームの田村泰久副チームリーダー、テクニカルスタッフの高田孔美氏、同 江口麻美氏、片岡洋祐チームリーダーらの研究チームによるもの。詳細は、英国の科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。

髪の毛は一生にわたってずっと伸び続けているのではなく、一本一本の髪の毛の寿命は大体3~6年と考えられている。頭髪や体毛を作っているのは皮膚の中にある毛包という器官であり、毛包は死と再生を繰り返す細胞群を含んでおり、成長が終わった毛を脱落させ、新たな毛を産生する働きがある。この毛が生えてから抜け落ちるまでを「毛周期」と呼び、成長期、退行期、休止期の3つのステージに分けられる。

毛がどのステージにあるかは毛包の形や細胞を見れば分かるが、皮膚の表面から見えるのは毛包の一部である毛穴であり、その奥がどのような状態にあるかまでは見ることはできない。そのため、生体内で起きている毛周期を観察することができれば、毛髪の再生に関する基礎研究や、発毛・育毛剤の開発に役に立つと考えられ、これまで研究が行われていた。

理研の研究チームは今回、毛包を構成する細胞の1つである「NG2細胞」という、脳で神経系の細胞を作りだす細胞に着目し、ラット体毛での毛包を調査した。その結果、成長期、退行期、休止期の各ステージでNG2細胞の数が大きく変化していることが判明。さらに、「この細胞数の変化を皮膚の外から観察できれば、個体で機能している状態での毛包のステージが分かる」と考え、遺伝子組換えによりNG2細胞が発光する遺伝子改変ラットを作製し、超高感度カメラで撮影したところ、毛周期と一致してNG2細胞の発光が変化することが確認できた。

  • 毛周期モニタリング

    発光遺伝子を組み込んだNG2細胞のイメージング。背中の体毛を除去したラットを暗室に置き、高感度カメラで撮影した。毛周期に応じて発光の強さ(緑~赤)が変化している (出所:理化学研究所Webサイト)

これらの結果により、加齢に伴う脱毛は毛周期の乱れが原因の1つとされているが、NG2細胞の発光周期が不均一であることや、休止期に相当する発光しない領域が増加していることなどが分かった。

同成果に関して研究チームは「今回開発した毛包イメージングは、皮膚の中にある毛包の活動を捉えることで、自然な状態の毛周期をモニタリングできる画期的な方法。今後、この方法が発毛剤による発毛促進効果の評価に適しているかなど、詳細に検討する予定」とコメントしている。