新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、ダブル技研および産業技術高等専門学校(産業技術高専)は1月11日、機械装置の構造的な仕掛けのみでさまざまな形状のものをつかむことができる、ロボットハンドの「からくり」を開発したと発表した。同日都内で行われた会見では、同技術を用いたロボットハンドが、シュークリームや果物などを持ち上げる様子も公開された。

産業技術高等専門学校の深谷直樹 准教授

同研究は、NEDOが推進する「次世代人工知能・ロボット中核技術開発(2015年度~2019年度)」プロジェクトの一部で、「自律的に多様な作業を実現するスマートアクチュエ―ション」の開発を目指して実施されているもの。主に、産業技術高専が基礎研究を担当し、そこで得られた成果をダブル技研が産業用途の製品開発へと応用展開している。

産業技術高専の深谷直樹 准教授は、「ロボット(ハンド)は、工具のように形が不揃いな物や、果物のように柔らかい物をつかむのが苦手」だと説明する。従来のロボットハンドがシュークリームや生卵をつかもうとすれば、把持する力をフィードバックなどで調整をしなければ、力加減を誤り、つぶしてしまう、もしくは取り落してしまうため、指や関節部にセンサやモーターを大量に搭載し、それらを細かく制御する複雑なプログラムを記述する必要があり、手間とコスト、そしてメンテナンス性の悪さ、といった課題があった。

  • 多数のセンサ・モーターを組み込んだロボットハンドでシュークリームを掴もうとすると、複雑なプログラムが必要になる

電子制御に頼らない「からくり」で装置のシンプル化を実現

今回、深谷 准教授が開発したのは、人間の手や指の微妙な構造を工学的に模倣した「からくり」であり、これにより、モーターやセンサなどの電子部品や、プログラム制御の複雑さを最小限に減らすことに成功したという。

この”からくり”の重要な技術は「協調リンク機構」と「指先なじみ機構」の2つ。”協調リンク機構”とは、ロボットハンドの手の全体が連動して対象物に自然になじむための仕組み。これにより、ロボットハンドをセンサなどで制御せずとも、自動的に力を均一に分散させることができ、対象物の形状に合わせて手を屈曲できるようになった。これは、ヒトが物をつかむときに、手の形を物の形状に合わせる動作をイメージしてもらうとわかりやすいだろう。

  • 1つのモーター制御で物をつかむ「からくり」

一方の”指先なじみ機構”は、指先がぴったりと物に接触するための機構だ。人間が人差し指・中指・親指で物をつかむ場合、人差し指や中指の指先が、微妙に回転することで接触面を大きくする動きにヒントを得たもので、この仕組みを模倣することで、物をより高精度に掴むことができるようになったという。例えば、ペンや棒などの細い物であっても、指先の角度を変えてしっかりと密着させることで、広い接触面でつかむことができ、掴んだ物の取り回しがしやすくなった。

  • ヒトの手の「なじみ」を再現し、モノを掴みやすくする「からくり」

「からくり」の活用で状況に合わせた複数のロボットハンドを開発

今回の会見では、開発されたからくりを応用した3種類のロボットハンド(「F-hand」「オリガミハンド」「New D-hand」)も公開された。

F-handは、生産・製造現場や、建築現場・災害対応などの耐久性が求められる環境、もしくは家事対応・物流作業などのサービス業での利用を想定したロボットハンド。同機のデモンストレーションでは、果物やシュークリーム、ペンなどのさまざまな形状の物を持ち上げる様子が見られた。

  • さまざまな形状の物をつかむことができる「F-hand」

オリガミハンドは、1枚の紙のシートを折り曲げ、のり付けするだけで制作可能なロボットハンド。使い捨てができるため、医療・食品などの衛生分野での利用のほか、軽さや構造の簡単さを生かして顕微鏡などの微小領域や宇宙・深海などの極限環境での利用も期待できるとのこと。

  • 「オリガミハンド」。紙やプラスチックなどの安価な素材からできており、使い捨てが可能なほか、用途に応じて自在にサイズを変更することができる

ダブル技研の和田博 代表取締役

New D-handは、ダブル技研の既存製品の「高価である」、「なじみ機能の性能が不十分」といった複数の課題を、深谷氏の研究成果を活用することで解決することを目指して開発されたもの。先述の「協調リンク機構」と「指先なじみ機構」を適用することで、把持性能の向上、より広い現場での活用を実現した。

ダブル技研の和田博 代表取締役社長は「展示会などでの顧客の反応を見る限り、New D-handの性能には手ごたえを感じている。現在はどのようなニーズに対応できるかの調査の意味も含め、物流分野での仕分け作業への利用、ドローンへの応用など、幅広い分野にも挑戦している段階。今後は、市場の成長が期待されている、サービスロボット分野への応用も進めていきたい」と今後の展望を示した。

  • 「New D-hand」

なおダブル技研は、これらのロボットハンドについて、1月17日~19日に東京ビッグサイトで開催される「第2回 ロボデックス」に出展する予定だとしている。