アナログ・センサ・通信などを融合したIoT関連や、多数のセンサを搭載した自動運転車、多機能スマートフォンなどに牽引され、長期低落へ向かうと思われていた200mm(8インチ)ファブの需要が復活しつつある。中でも1980年代のDRAM全盛時代に建設された200mm以下のファブが世界で一番多く残存している日本は、生産技術の革新によりそれら小口径のレガシーファブを延命させるのか、それとも300mmへ移行するのかという岐路に立たされる状態となっている。そんな中、半導体製造技術に関する国際会議ISSMの運営委員会が、日本半導体製造装置協会(SEAJ)、日本電子デバイス産業協会(NEDIA)および国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の協賛を得て「ISSM戦略フォーラム2017:レガシーファブの生産技術革新 -6インチ・8インチファブが覚醒?!、レガシー・ファブの岐路?!」を開催した。

  • ISSM戦略フォーラム2017の会場風景

    図1 ISSM戦略フォーラム2017の会場風景 (提供:ISSM事務局)

時代で変化する半導体のけん引役

南川明氏

図2 基調講演講師の南川明氏 (提供:IHS Markit)

基調講演は、IHS Markit日本調査部ティレクターである南川明氏が「6、8インチファブのアウトルック」と題して行った。同氏は、まず電子機器産業の最近の潮流から話を始め、「2000年台はPC、携帯電話、TVが牽引役だったが、それらの成長は飽和した。一方、2010年以降は産業、車載エレクトロニクスが拡大を始めている。IoTの主戦場は産業機器分野で、いよいよ拡大期に入ってきた」と述べた。

電子機器の牽引役はPC、スマートフォン(スマホ)、TVから車載、産業機器にシフトするにつれて、必要とされる半導体の種類も変化してきたという。PC、スマホ、TVなどの機器は、そのほとんどがメモリICとマイクロIC(MPUやMCU)、ロジックIC中心に構成されていたが車載や産業機器は、アナログIC、ディスクリート半導体、光学半導体(イメージセンサ、レーザーなど)が多用される傾向にある。

  • 電子機器1台当たりの半導体/電子部品搭載比率

    図3 電子機器1台当たりの半導体/電子部品搭載比率。色分けは最下の青色から最上の赤色に向かって、メモリIC、マイクロIC、ロジックIC、アナログIC、ディスクリート半導体、光学半導体、センサ/アクチュエータ (出所:IHS Markit)

これらは、最先端のプロセスから見れば、数世代前の、加工寸法が緩いレガシープロセスで製造されるものばかりだ。だが、全半導体製品売上高の中で、これらのレガシープロセス製品の比率が徐々にではあるが増えてきているという。

  • 半導体デバイスの種類別売上高の推移

    図4 半導体デバイスの種類別売上高の推移(左。単位:百万ドル)と半導体デバイスの種類別売上高シェア(右)。色分けは、最上の緑色から最下の青色に向かって、センサ/アクチュエータ、光学半導体、その他のディスクリート半導体、パワートランジスタ・サイリスタ、アナログIC、ロジックIC、マイクロIC (MPUやMCU)、メモリIC (出所:IHS Markit)

まだまだ続く200mmファブの活用

また、同フォーラムでは、「既存装置の延命生産技術」として、ジャパンセミコンダクターのファクトリー生産技術部長の谷川元氏が、「レガシーファブが抱える装置延命の課題とその取り組み」と題して講演を行った。同社は、旧東芝大分工場と東芝の子会社だった岩手東芝エレクトロニクスが統合して2016年に誕生したファウンドリで、大分および水上に200mmのファブを有し、アナログデバイスは0.13~0.6μm、CMOSロジックデバイスは90nm~0.8μmに対応しているという。

製造装置は、すでに15年以上(平均)使っており、その56%はすでに製造中止となっており、新品と置き換えできないだけではなく、部品交換や修理もままならない。製造中止となった部品は似通った代替品と交換したり、故障した装置の一部は延命改造したり、東芝生産技術センターの協力を得てスタンドアローンの装置に自動搬送機能を付加させるなどの改善事例を紹介した。200mmの中古装置は、市場でも枯渇気味で価格が高騰(特にステッパーが高騰している)、かつ品質の良いものが出にくくなっているという。谷川氏は、装置メーカーへの要望として「300mm用の先進のコンセプトでプロセスチャンバは200mmという高スループットで廉価な200mm製造装置を開発し、販売してほしい」と述べていた。

このほか、オムロン マイクロデバイス事業推進部生産2課課長の中村智史氏は、「LSIからMEMSへ ~ レガシーファブでの量産技術」と題して、1989年に竣工した日本初の200mmファブ(旧日本IBM野洲事業所半導体製造ライン)を引き継いでMEMS量産ラインに転換した事例を紹介したほか、Applied Materials Japan、Lam Research Japan、および東京エレクトロンといった大手半導体製造装置メーカーから、こうした国内の動きを好機ととらえ、新たな200mm製造装置を上市する話も披露された。

日本はレガシーファブを活用しきれるのか?

このほか、ISSM事務局では、セミナー開催中に参加者にオンラインアンケート調査を実施し、以下ののような興味深い結果を得ている(有効総数は53名)。

「5年後、8インチファブで製造されている半導体製品は何か?(複数回答可)」という問いに対しては、パワー半導体、アナログ、MEMSと答えた人が多かった。センサと答えたのは1名だけであった。

また、「レガシーファブの活用にあたり阻害要因は何か?(3つ以内)」という問いに対しては、阻害要因として多くの人が まず古い装置の維持管理を挙げた。装置はすでに製造中止となり、修理もままならず、部材も入手困難な状況になっているためである。そのような古い装置を操作し、保守できる人員の確保の困難さを挙げた人も多かった。このほか、約3割の回答者が、製造中止で新規装置の供給が期待できない点や、小口径ウェハによる製造はコスト高になる点を挙げていた。

さらに「日本の8インチ関連技術(ウェハ、製造装置、生産技術)は、半導体新興国(中国やインドなど)に移転されると思うか(一択)」という問いや、「韓国、台湾、米国の8インチ関連技術は半導体新興国に移転されると思うか?(一択)」という問いも実施。

  • アンケート結果

    左が日本の8インチ関連技術が海外移転されると見る割合、右が韓台米の8インチ関連技術が海外移転されると見る割合

結果は、日本の8インチ技術は回答者の47%が移転すると思っているのに対して、韓中米の8インチ技術は、回答者の68%が移転すると思っていると言う温度差が示された。これは、韓日米は、レガシー技術はさっさと新興国に移転して、先端技術へ移行するのに対して、日本勢はレガシー技術を海外勢よりも後生大事にするということの表れのように見受けられる。

このほか、「日本の半導体産業は、小口径ウェハによる製造のレガシー戦略で成功が期待できると思うか?」という問いに対しては、回答者の8割超がレガシー戦略での成功を期待するという結果となった。もっとも、回答者のほとんどがレガシ―戦略の関係者やそれに興味を持っている人々である点を考慮する必要があるだろう。Samsung Electronics(メモリ)、Intel(プロセッサ)、ソニー(イメージセンサ)、Texas Instruments(アナログIC)、Infineon Technologies(パワーデバイス)といった企業が300mmウェハを使用した大量生産により当該分野のシェアトップになっている状況で、日本勢がレガシー戦略で成功するのはそう簡単ではないことは想像に難くない。

なお、同フォーラムの親会議である半導体製造国際シンポジウム「ISSM2018」は、応用物理学会や米IEEEなどの主催で2018年12月10日~11日(火)、東京都内で開催される予定で、論文締切は2018年8月下旬を予定しているとのことである。