物質・材料研究機構(NIMS)と横浜国立大学(横国大)の研究グループは、自己治癒セラミックスが、骨の治癒と同じく炎症・修復・改変期という3つの過程で治癒することを発見した。さらに、セラミックスの治癒を促進する物質を結晶の境目に配置することで、高温条件下でき裂を完治するセラミックスの開発に成功した。

  • 自己治癒セラミックス

    自己治癒の様子(左)。ネットワーク状に配置された酸化マンガン(緑)が治癒を促進する(右) (出所:物質・材料研究機構Webサイト)

同成果は、NIMS 構造材料研究拠点の長田俊郎 主任研究員、原徹グループリーダー、阿部太一 主幹研究員、大村 孝仁 副拠点長、同国際ナノアーキテクト研究拠点の三留正則 主席研究員と、横国大学大学院工学研究院の中尾航 教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国の学術誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。

自己治癒セラミックスは1995年に横浜国立大学の研究グループにより発見されて以来、航空機エンジンタービン用の軽量耐熱材料として注目されてきた。しかし、治癒の仕組みは未解明であり、また、1200℃~1300℃の限られた温度領域でしかき裂を完治することが出来ないといった問題があった。そのため、治癒機構を解明し、さまざまな温度域で高速で完治できるセラミックスの開発が望まれていた。

研究グループは今回、自己治癒セラミックスにき裂が入ると、き裂から侵入した酸素と、セラミックスに含まれる炭化ケイ素が反応して二酸化ケイ素が合成され、セラミックスの母体であるアルミナと二酸化ケイ素が反応してき裂を充填し、結晶化して強度が回復するという3段階で治癒が進むことを明らかにした。これは、骨でいうところの炎症・修復・改変期という3つの治癒過程と似たものであるという。

  • 自己治癒セラミックス

    骨でいうところの「炎症・修復・改変期」を通したセラミックスの自己治癒機構と治癒活性層の働き (出所:物質・材料研究機構Webサイト)

さらに、骨の治癒を促進する体液ネットワークをヒントに、セラミックスの治癒を活性化する酸化マンガンを、アルミナの粒界に極微量配置することで、従来、1000℃で1000時間かかっていたき裂の治癒時間を、最速1分程度で完治させることに成功した。

  • 自己治癒セラミックス

    左図はき裂治癒によって破壊強度が回復していく様子。小さなき裂を導入した試験片の強度は1000℃において10分程度で完全にオリジナルの強度まで回復する。右図はガスライターで治癒している様子 (出所:物質・材料研究機構Webサイト)

研究グループは「今回の研究成果をもとに、治癒活性相の種類を適切に選定することで、優れた自己治癒機能を自在に付与した、『割れが入っても壊れない』革新的高温用セラミックスの開発を目指す」とコメントしている。さらに今後、産業界での実用化を加速化するために、必要なデータベースの整備を推進するとともに、組成・組織・使用条件から治癒速度を予測可能な計算プラットフォームの開発を進めていく予定だという。