Body on a Chip(ボディ・オン・チップ)

大学の研究組織である高等研究院で、最先端の医療研究を行っている亀井謙一郎さん。研究成果が世の中の役に立つ喜びがある一方で、目指す結果にたどり着くまでには試行錯誤の連続だといいます。研究で行き詰まった時の乗り越え方などの他、これからの医療に求められる研究者像についても伺いました。

■異分野の学会にも積極的に参加し、社会のニーズをつかむ

――不安になる時や行き詰まった時、どのように乗り越えていますか?

散歩に出てみたり動画を見たりといった気分転換はよくしています。あとは、研究分野の異なる友人や知人と話すことですね。「こういうことで困っているんだけど、どう思う?」と聞いてみると、自分の専門分野だけでは気付けなかったアドバイスをもらえることも多いです。また本当に行き詰まってどうにもならなくなってしまった時は、いったん研究から離れてみた方が良い場合もあります。


――業界内の横のつながりは多いですか?

私が所属する研究拠点にはさまざまな分野の研究者がいるので、専門分野を越えたつながりは多いですね。知見を広げるため、異分野の研究学会にも積極的に参加するようにしています。専門分野だけに閉じこもってしまうと、他の分野でどのようなニーズがあるのかをつかみ取ることができません。常に新しい領域に飛び込んでいくことはとても重要だと思います。

また私が行っている医療分野の研究は、成果を実用化できなければ意義が半減してしまいます。本当に社会に役立つものを作るために、医療関係者や製薬会社の方ともしっかりコミュニケーションを取っています。

■日本とアメリカでは研究環境に違いも

――お仕事にまつわる「あるある」エピソードを教えてください。

ちょっとした機械なら、説明書を見ずに組み立てや配線ができます。パソコンも自作しますし、最近では研究に使用する機械を自分で組み立てました。あと、機械を見るとつい分解したくなります(笑)。


――アメリカにいた時、日本の研究環境と違いを感じることはありましたか?

日本に比べ、アメリカは研究の進め方がダイナミックかつ速いと感じました。欧米の研究者数が多いこともあり、著名な研究者に会う機会も多いですね。研究者同士の交流も盛んで、共同研究もスムーズに進めやすかったです。一方でアメリカは、よく言えばおおらか、悪く言えば大雑把なところがありました。例えば細菌を培養している室内に土足で入ってもOKだったり。現在ではそんなことはないかもしれませんが、渡米した当時は少し驚きました。

■個別化医療の実現や希少生物の保全も。新たな技術で医療の発展に貢献する

――これからの医療研究者に求められるものとは?

今後進んでいくであろうiPS細胞などによる再生医療の実用化は、特定の分野だけでは絶対に成り立ちません。医療分野だけでなく理学系や工学系、法律など、幅広い分野の専門家としっかり連携しながら取り組む必要があります。1つの研究分野を深く掘り下げることはもちろん大切です。

しかし今後は、他分野の人たちとのコミュニケーションや、「みんなで一緒に新しいものを創り出そう」という意識が、より求められるようになるでしょう。将来医療研究者になりたいと考える高校生には、机上の勉強だけでなく、今のうちからきちんと周りを見る目を養ってほしいと思います。


――今後の展望についてお聞かせください。

私たちの研究グループが開発した「Body on a Chip(ボディ・オン・チップ)」は、iPS細胞を活用し、大きさ数cmのチップにヒトの臓器の機能を再現させたものです。ヒトの細胞は体外に出すと機能を失うため、従来の細胞培養による実験では、薬の効き目などを正しく調べることが困難でした。

「Body on a Chip」でヒトの生体に限りなく近い環境をつくり出せば、薬の効果もより正確に評価できるようになります。臨床試験の前に行われている動物実験も、実施する必要がなくなるでしょう。現在はまだ2つの臓器しか再現できていませんが、ゆくゆくは全ての機能を兼ね備えた「ミニチュアの人体」をつくりたいと思っています。さらに「Body on a Chip」に患者さんそれぞれのiPS細胞を用いれば、個別に効果のある薬や治療法を見つけ出せるようになると思います。

今後は、ヒト以外の動物にも「Body on a Chip」の技術を応用していきたいと考えています。例えば絶滅危惧種の生体を模倣したデバイスがあれば、その動物が病気になる原因や対処法を調べ、希少種の保全につなげられるはずです。新しい技術で医療の発展や社会的課題の解決に貢献することが、私の目指す研究目的です。



亀井さんはご自身の高校時代を振り返って、「もっと研究や実験に触れられる機会がほしかった」と思うそうです。アメリカの研究室にいた頃は、夏休みなどに現地の高校生が研究の手伝いに来ることも多く、「こんな環境が日本にもあればいいのに」とうらやましく感じていたのだとか。最近では、高校生を対象に見学を実施している大学の研究室もあるようです。興味のある人は一度訪れてみると、新しい世界が開けてくるかもしれませんね。


【profile】特定拠点准教授 博士(工学) 亀井謙一郎
https://ken1kamei.wordpress.com/