Body on a Chip(ボディ・オン・チップ)

新しい治療法や治療薬など、日々進歩を続ける医療の世界。それを支える仕事が医療研究者です。今回お話を伺ったのは、大学の研究組織である高等研究院で特定拠点准教授を務める亀井謙一郎さん。もともとの専門である工学の技術を生かしながら、最先端の医療研究に携わっています。

■微細加工技術を再生医療や新薬開発に生かす

Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。

大学の高等研究院内にある研究拠点で、医療分野に関する研究を行っています。研究分野は工学や物理学、材料科学、細胞生物学など、細かく分けられます。国や専門分野の垣根を越えて研究者が互いにアイデアを出し、新しいアプローチで社会的課題の解決を目指すところが、私たちの研究拠点の特長です。

その中で私は、コンピュータの回路を作るときなどに用いる微細加工技術を応用し、再生医療や新薬の開発、病気のメカニズム解明などに役立つような研究を行っています。現在は、iPS細胞と微細加工技術を組み合わせ、生体の構造をチップ上に再現する「Body on a Chip(ボディ・オン・チップ)」の研究を進めています。

<一日のスケジュール>
9:00 出勤
午前中 メールチェック、論文執筆
11:30 昼食
12:30 実験、学生との議論など
17:30 論文執筆
18:30 退勤

Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?

研究の結果、自分が思い描いた成果が得られた時は、やはりとてもうれしいです。また研究だけでなく、その結果を論文で発表することも研究者の大切な役割。別の研究者が私の論文を読み、そこからまた新たな研究につながるというプロセスを実感できた時は、とても大きなやりがいを感じます。

もちろん論文の反応は良いものばかりではなく、時には批判的なものもあります。それでも、自分の研究で他の人に影響を与えることができるのは、研究者としてこの上ない喜びです。


Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?

実験の過程では当然うまくいかないこともあります。「研究の方向性は合っているはずだ」と思いながらも、目指す結果にたどり着くまでには試行錯誤を繰り返していくんです。以前、最初の1回は実験がうまくいったのに、その後半年くらい再現性が取れなかったことがありました。研究のプロセスとして必要なことだと分かってはいるのですが、やはり失敗が続くとつらいです。

また論文を学術誌に投稿すると、掲載前に別の研究者(査読者)による内容のチェックを受けます。厳しいコメントが返ってきたり、書き直しになったりすることも珍しくありません。説明や修正を行っても掲載不可になってしまうこともあり、そんな時は落ち込みますね。

■学生時代の専門は工学。卒業後渡米しバイオ分野に転向

Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?

子どもの頃から物をつくるのが好きで、中でも「ガンプラ(ガンダムのプラモデル)」が大好きでした。それが高じて大学も工学分野に進学。当時は「将来は車やロケットをつくってみたい」などと考えていました。研究分野を転向しようと考えたのは学位取得後、博士研究員(ポスドク)として渡米した時です。アメリカで所属したのは、がん研究などを行うバイオテクノロジー分野の研究室でした。そこで学んだ研究ニーズやアプローチ方法と、学生時代に培った工学の知識を生かし、生体の構造・機能の本質を追究したいと考えました。


Q5. 大学では何を学びましたか?

大学では、電気回路を使って細胞の反応を測定する「バイオセンサー」の研究を行っていました。大学院でも同じ研究を続けましたが、その中で「医療や創薬のニーズをしっかりつかみ切れていないのではないか」と考えるようになりました。そこで、その後渡米した時に、研究分野をバイオテクノロジーに転向したのです。


Q6. 高校生の時に抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?

受験勉強をはじめとする高校時代の勉強は、詰め込み型の暗記がメインになりがちです。でも私の場合は、周りに「本質をきちんと理解したい」と考える友人たちが多くいました。公式もただ覚えるだけではなく「この公式がどうやってできたのか」を理解すれば、たとえ公式を忘れてしまったとしても、自分の力でさまざまな問題に取り組めるようになります。

そういった周りの環境にも影響を受け、試験問題の先につながる勉強ができるようになりました。事象に対して疑問を持ち、その本質を理解しようとする姿勢は、研究者となった現在にもつながっていると思います。

■既存概念にとらわれず、創造力を実現化する仕事

Q7. どういう人が医療研究者に向いていると思いますか?

新しいものが好きで、身の回りで起こる物事を当たり前と捉えず常に疑問を持てる人。そして研究が失敗しても諦めずに続けていける、忍耐力のある人が向いていると思います。
また研究者は専門分野を突き詰めることも大切ですが、それに加えて、自分の研究を他の人に伝えていかなければなりません。自分の殻に閉じこもらず、外に向けて発信するためのコミュニケーション能力も必要だと思います。


Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。

研究者には「自分の創造力を実現化して、それを伝えていく」という大きな喜びがあります。既存の概念にとらわれずに、若いうちからどんどん新たなチャレンジができる仕事です。自分の創造力をフルに発揮し、世の中の課題を解決したいと考える方は、ぜひ私たち研究者の仲間になってください!



高校時代の勉強を通じて身に付いた、物事の本質を追究する姿勢が、現在の研究にもつながっていると亀井さんは言います。高校生の皆さんも、日々の勉強に取り組む際に「なぜだろう」と考えるように意識してみてはいかがでしょうか。教科書や参考書を暗記するだけでは得られない、新しい気付きがあるかもしれませんよ。


【profile】特定拠点准教授 博士(工学) 亀井謙一郎
https://ken1kamei.wordpress.com/