民泊サービスとして有名な「Airbnb」だが、「体験」も取り扱っていることをご存知だろうか?

「体験とは何か?」と言われても、Airbnbのサイトには「体験(Experiences)」としか書かれていない。従来の旅行サービスで言う「オプショナルツアー」とも言うべきものだが、同社は「さまざまな場所でユーザーが"体験"できるやりたいこと」を「体験」と定義しており、「ツアー」とは一線を画す。日本人向けサービスでは「アソビュー」が競合に当たるだろう。

  • Airbnbで東京・体験を検索すると、食事からスポーツまで、さまざまなアクティビティが見つかる

Airbnbは1年前の11月に「Trips」を発表。これは、「体験」に加えてレストラン予約サービスなどと連携する「プレイス(国内では未提供)」などを用意し、Airbnbが長年提供してきた民泊の枠を超え、文字通り"旅行"を一つのサービス・アプリとして横断的に提供するものだ。

特にコアとなる「体験」の成長は著しく、公開後1年で掲載件数が全世界3100件を超え、26カ国40以上の都市で楽しめる「体験」が掲載されている。さらに驚くのが、体験の予約数で「東京」が世界一であることだ。来訪観光客数はもちろん、国内ユーザーの絶対数が少ない東京が、パリやLA、バルセロナなどの欧米主要都市を差し置いてもっとも利用されたのはなぜか。

筆者は、米AirbnbでTrips事業の最高責任者を務めるJoseph Zadeh氏と共に「東京都心で遊ぶカヤック」を体験し、その魅力とAirbnbが考える「体験」の価値についてZadeh氏に話を聞いた。

  • 米Airbnb Trips事業 最高責任者 Joseph Zadeh氏

3カ月で100組以上の訪日外国人に「体験」を提供したカヤック

今回体験した「体験」は、「Tokyo waterway night paddling」。旧中川を上って北十間川へと進入し、東京スカイツリーを背景に記念写真を撮れる往復約6kmのルートだ。この「体験」を提供するクーランマランの福田 高士氏がAirbnb向けにサービスをスタートしたのは9月から。Airbnb側からのアプローチで掲載を始めたという。

  • 実際に、東京スカイツリーを背景に記念撮影した写真

もともと日本語で日本人向けをメインにサービス展開しており、昨年から台湾人の知人などからの紹介で「ポツポツ紹介があった程度」(福田氏)でしか外国人の利用者はいなかったという。10年以上に渡ってカヤック体験のインストラクターを務め、スカイツリー見学のコース体験も5年ほど提供してきた福田氏だが、「英語は本当に初歩的なガイドしかできなかった」と苦笑いする。

しかし、Airbnbに掲載されてから3ヶ月ほどで、既に100数十組の応対をこなし、時には1日に20~30組とメールでコミュニケーションするようになったという。「日本人は冬に向けて客足が鈍るし、週末に予約が集中しますが、外国人はまだ予約が入りますし、平日の予約も多く、今では『これ(Airbnb)一本でできるかも』という手応えを少し感じています」(福田氏)。

Airbnbによれば、このカヤック体験は東京の「体験」人気でトップ5に入る人気コンテンツだという。料金は2~3時間で料金は1人あたり7000円と、「体験」全体の平均料金である1人あたり約6125円(55ドル)を超えており、「日本の首都の川でカヤックを楽しめる」という希少性が好まれている一端が見て取れる。

「体験」のホストは応募自由、でも「落第」も

来日したAirbnbの社員は、Zadeh氏と共にアメリカから来た2名と中国、オーストラリアオフィス各1名の計5名で、Zadeh氏は短期留学で、日本に滞在したことがあるという。来日の目的は、「(トリップ事業最高責任者として)40都市以上でサービスを提供する中で、できるだけ各国のオフィスへ行き、街を見て、トップホストに会うこと」と話す。

東京以外にも北京や上海、香港、シンガポールとアジア各国を訪問するが「東京で一番長く滞在します。大学院で日本語を勉強しましたし(笑)」とZadeh氏。前述の福田氏以外にも、脱サラして渡英し、英語でコメディを勉強した日本人の「コメディバー」を訪れたという。

Zadeh氏は、なぜ東京が「体験」で一位になったのか、体感してわかったポイントがあるという。

「体験が成功する鍵は『ホスト』です。予約する時こそ、『面白そう』というだけで予約しますが、最終的なユーザーの評価には『人柄』や『情熱』が影響します。似たような体験であっても、方や成功、方や失敗となるのはこの要素が大きい。(福田氏が英語はダメと言っていた話に対し)英語がダメとかは関係ない。ボートをわかりやすく身振り手振りで教えてくれたり、細かい道具を用意してくれていたりと、『気配り』が大事。それが素晴らしいホストの要素だと思います」(Zadeh氏)

こうした写真撮影も『人柄』の一つとして評価につながるケースがあるとZadeh氏は話す

ホストが大切と力説するZadeh氏だが、実は人気コンテンツに特徴がないという裏返しでもあるようだ。「これが特に人気になるという予測は難しい」(Zadeh氏)と話すように、ヨガやランニング体験といったありふれたアクティビティはどの都市でも人気になるという。

「例えばスペイン・バルセロナの服屋の地下でフラメンコを見られたり、米国・シアトルでは狼に触れ合うことができる。蜂の防護服を着てミツバチの生態を知るといったことも可能です。日本では築地の『体験』も人気ですし、一概に何が当たるとは言い難い」(Zadeh氏)

だからこそ、Airbnbとしては『体験』を提供するホストを厳選している。福田氏のようにAirbnb側からアプローチすることがあれば、同社Webサイトから応募もできるものの、「体験のホストには、専門知識があるのか、情熱を持っているのかという審査を設けています。教育プログラムも用意して、どのように応対すべきか改善してもらうこともできますが、それでも水準に満たなければ受け入れられません」(Zadeh氏)。