AIで人命救助を! Amazon Pollyで災害放送を実現したエフエム和歌山

エフエム和歌山 クロスメディア局長 山口誠二氏

志村氏の説明の後、エフエム和歌山 クロスメディア局長の山口誠二氏が、「Amazon Pollyが命を救う。AIが生んだ、次世代ラジオ放送」の下、講演を行った。

エフエム和歌山は今年7月、Pollyを使った音声合成によるアナウンサー「ナナコ」の放送を開始したことを発表し、話題を呼んだ。読売新聞から提供を受けたデータを整形し、最新のニュースと天気予報を報じる。ただし、今回の講演のテーマは、このナナコではない。

山口氏は、2011年に東日本大震災が発生した際、地域の人による「臨時災害FM」がさまざまな地域で立ち上がり、多くの人の役に立ったことを紹介し、「災害時に、Webシステムを活用して、多くの情報を届けることで、多くの命を救えるのではないかと考えてきた」と述べた。

実のところ、ラジオ局でも臨時災害FMが開設できるように、各種機器を用意しているが、いざ災害が発生した際に誰が使うのかなど、ソフトウェア面の整備が追い付いていないという。

そこで、山口氏は、テキストをリアルな音声に変換する「Amazon Polly」を利用して、ラジオの災害放送を開発することを思いついた。「Da Carpo」が、同氏によって開発された災害報道用のAIアナウンサー・ソフトウェアとなる。Da Carpoは、人間と違って、24時間繰り返し災害放送を報じることを可能にする。

  • 災害報道用のAIアナウンサー・ソフトウェア「Da Carpo」の特徴

Da Carpoでは、ディレクターがテキストを打ち込み、それを読み上げる。というのも、災害情報はメールにFAXとさまざまな手段で伝えられるため、テキストの自動作成は難しいのだという。そのため、Da Carpoはディレクターがテキストを入力しやすいインタフェースとなっている。

今年、和歌山県は台風18号、21号による被害を受けたが、その際、Da Carpoは災害放送を行った。いずれの際も、5時間にわたり、災害特別番組を放送した。特に、21号は衆議院選挙の投票日と重なったため、いつにも増して人手が足りない状況だったが、1人のディレクターで放送を行ったという。AIの強みが生きた機会だったと言える。

山口氏によると、通常、災害緊急放送を行うには、原稿執筆担当、アナウンサーなど、4人必要なうえ、水やA4用紙、トナーなどの物資も必要だそうだ。さらに、英語で放送するとなると、翻訳を行い、英語を話せるアナウンサーも必要となる。実際、東北大震災の時は、紙が不足して放送ができなくなったこともあったらしい。

  • 1人で複数の役割をこなせるAIアナウンサー「ナナコ」

しかし、Amazon Pollyを使えば、原稿は人間が用意するものの、それ以外の複数の役割をこなしてくれる。山口氏は、「Amazon Pollyを導入することで、人がいらなくなったのではなく、人が情報収集に回ることができるようになった。つまり、濃い情報を届けられるようになった」と話す。

昨今、AIが一部の仕事を奪うのではないかという議論が行われているが、AIにできることはAIに任せて、人間はもっと高度なことを行えばいいわけだ。

人手とコストを抑えつつ、人間では難しい長時間にわたる災害放送を可能にしたAmazon Polly。山口氏も言っていたが、Amazon Pollyと人間の共創により、さらなるイノベーションを起こしていくことできるのではないだろうか。