自動車のエレクトロニクス化は留まるところを知らず、電気自動車(EV)への世界的な潮流が起こった2017年。そうした自動車分野や産業機器分野、特に車載LAN規格であるCANなどのバスネットワークの開発ツールなどで知られる独Vector Informatikは、2017年2月、米国の組み込みソフトウェア・アプリケーション向けテスト自動化ツールベンダであるVector Softwareの買収を発表した。

2つのVectorが出会う時、何が起こるのか。Vector Softwareのセールス&マーケティングオペレーションのVice Presidentであるマッツ・ラーソン(Mats Larsson)氏ならびに、同社APAC地域担当のセールス&エンジニアリングディレクターであるスティーブ・バーリョー(Steve Barriault)氏に話を聞く機会をいただいた。

Vector Softwareのセールス&マーケティングオペレーションのVice Presidentであるマッツ・ラーソン(Mats Larsson)氏(右)と、同社APAC地域担当のセールス&エンジニアリングディレクターであるスティーブ・バーリョー(Steve Barriault)氏(左)

まるで結婚のような2つのVectorの合流

Vector Softwareは、1989年に創業し、1994年にソフトウェアの開発プロセス改善ソリューション「VectorCAST」を発表。アビオニクス向けを中心に、自動車、産業機器、医療機器、鉄道などの幅広い分野に向け、テストの自動化を提供してきた。今回の買収は、Vector Informatikが、似たような業界に向け、異なる方向からアプローチを仕掛けているVector Softwareを取り込むことで、自社のビジネスを強化、拡大できるという判断から行われたという。

一方のVector Software側も、「より事業規模の大きな企業と一緒になることで、サポート力の強化ができる。例えば、我々単独では、日本地域のオフィスは横浜のみであったが、Vector Informatikの日本法人であるベクター・ジャパンは東京のほか、名古屋と大阪にも拠点を有しており、こうしたリソースを活用することで、我々の元々の顧客に対するサポートをより密接に行うことができるようになる」(Larsson氏)と、買収によるメリットを強調する。また、日本地域と同じように、アジアでのVectorCASTの販売強化にもつながることも期待されるという。「VectorCASTは現在、北米での活用はもとより、欧州でも活用が増えてきており、今後、アジア地域での活用を増やすことが、今回の買収で期待できるようになる」(Barriault氏)と、市場の拡大というメリットも得られるともしている。

このようにVector Softwareとしても得られるメリットが多数あることから、Larsson氏は今回の買収について、「結婚という表現が良いくらいの組み合わせだ」と表現する。では、なぜ、今、このタイミングなのか、というと、「経営判断という側面が大きいが、今、このタイミングで、この組み合わせが必要であると求められたからだ。結婚は、互いにイエスと言わないと出来ない。お互いが求め合った、このタイミングが、そうした時期だったということだ」とユーモアを交えて説明してくれた。

また、Vector Software買収には、Vector Informatikのもう1つの思惑が見える。Vector Informatikは、自動車分野に注力する形でビジネスを成長させてきた。一方、Vector Softwareは自動車も含まれるが、それ以外の分野でもまんべんなく活用されており、同社を自社のソリューションに組み入れることで、自動車以外の分野に対する橋頭堡を確保できるようになり、旧来の自社製品と組み合わせたソリューションとして、そうした市場の開拓が期待できるようになる。同氏も「すでにVector InformatikのCANoeとVectorCASTを組み合わせて活用しているユーザーもおり、顧客の要望に応じたソリューションとして製品を提供することができるようになる」としており、将来的にはさらに協業した形のソリューションが提供される可能性もあるとする。

VectorCASTのスクリーンショット

目標はソフトウェアテストでのメジャーカンパニー

Vector Softwareは買収後も独立した事業部として残り、開発チームや製品サポートのチームなどもそのまま維持される。そんなVector Softwareの今後について同氏は、「ソフトウェア品質の良し悪しが顧客体験を左右し、それが最終製品の差別化にもつながる。そうした意味ではVectorCASTをあらゆるソフトウェアエンジニアの標準ツールボックスへと押し上げることで、ソフトウェアテストのメジャーカンパニーになるのが理想」と語る。

また、「車載ネットワークにVector Informatikは強みを有してきたが、その自動車がネットワークに接続されるようになり、その先にあるさまざまな機器ともつながる可能性が高まる現在、自動車にこだわることなく、さまざまな産業に適用領域を広げていくことは夢物語ではない」とも述べており、VectorCASTをVector Informatikグループの中でもメジャーソフトへと成長させることで、さまざまな分野で活用されるパートナーのような存在になりたいと述べており、今後、Vector Informatikの一員として、「Industry Oriented」にこだわっていくことを強調していた。