残り2試合で首位鹿島との勝ち点差は「4」。川崎の鬼木監督は「数字上は(J1優勝は)他力だけど」と話しつつ「自分たち次第で、まだまだ可能性がある」と力強く口にした

 改めて思う。迷った時に立ち返れる場所があるチームは強い。

 我慢の2文字がキーワードだった。

 15分。中村憲剛が裏に飛び出し、右足の1タッチボレーをゴールの上にふかしたのが始まり。28分。奈良竜樹がCKに合わせたヘディングは東口順昭の右手にはじかれた。54分の小林悠は東口の右足、60分のエウシーニョは東口の左手、73分の家長昭博は東口の右足に。間一髪、阻まれる。

 果敢につないで好機を紡ぎ続ける川崎フロンターレ。決定的なシュートを放つたび、ガンバ大阪の守護神を乗せていく皮肉な循環をたどっていた。

「プレッシャーはあった」と鬼木達監督。18日の明治安田生命J1リーグ、試合がない首位・鹿島アントラーズとの勝ち点差は7。負ければ鹿島の優勝が決まり、引き分けでも逆転の可能性は限りなくしぼむ。押し込んで、打てども打てども入らない。いつもの川崎なら、焦って一発の逆襲に沈む展開。ある意味、典型的な負けパターンだった。

 こんな時、普通ならベンチは動き、策を尽くして流れを変えようとする。しかし、鬼木監督は違った。「我慢強く戦おう」。胸に決めていた。

「選手も(内容は)悪くはないと感じながらプレーしているはず。自分から変な形で崩したくはなかった」

 多彩なアタッカーが控えで満を持していた。しかし、鬼木監督がようやく切った札は76分、阿部浩之に代えて長谷川竜也。走り回って周りにスペースをもたらす、ともに似たタイプだ。リズムは保ったまま、ピッチの11人から疲れを取り除くことに腐心した。

 中村も思いは同じだった。「ヒガシ(東口)のファインセーブが多くて、けど、そこまでのチャンスはつくれている。方向性は間違っていないって自信があった。手を変えるより、このやり方のままで点を取りにいけると」

 だから、一足飛びのロングボールやパワープレーに頼ろうとはしなかった。前後左右に細かなパスの出し入れを奏でて、根負けせずガンバの守備網を揺さぶった。

 実ったのは82分、長谷川の粘りを起点に得たCKだ。中村が蹴ったボール、家長が頭でコースを変えた。遠くで待ち構えていたのはエウシーニョ。左足で東口の股の下を抜いた。

 思い起こせば今季の川崎、開幕のAFCチャンピオンズリーグから我慢の連続だった。「こういう試合を勝ちに持っていったり、ギリギリで引き分けたり、粘り強くやれるチームになった」と中村。それでも2週間前のYBCルヴァンカップ決勝で初戴冠を逃した。失意が癒えない最初の1週間。「一生懸命に練習しているんだけど、盛り上がりというか、盛り上がっていいのかどうか」との微妙な空気が鬼木監督には伝わってきた。ミーティングで告げた。「自分たち次第。数字上は(J1優勝は)他力だけど、実際には自分たち次第で、まだまだ可能性がある、奇跡を起こせる」。磨き上げた看板のパスワークを「突き詰めよう」(中村)と選手も腹をくくった。

 そうやって生まれた勝利。改めて思う。リアクションに徹して現実的に戦うのもサッカーなら、自らを信じてアクションを起こし抜くのもサッカーだ。優劣はない。ただ、崖っぷちに追い込まれた時、「このサッカーでダメなら仕方ない」(鬼木監督)と割りきれる原点を持っているチームは揺るがない。

 そしてもう一つ、決勝点の余話を。CKを担う中村がひらめいていた。「あの場面までニアに蹴ってはじき返されていた。ファーに蹴れば何か起きるかもと。ファーならヒガシも届かない。跳ね返されて終わり、にもならないんで。目先を変えたら、味方が反応してくれた」

 ちょっとした機転。心の余裕、遊び心と言い換えてもいい。ボール支配率とか体脂肪率とか数字では測れない勝負事の肝を、この日の川崎は心得ていた。

文=中川文如