東京工業大学(東工大)は、液晶など大面積の二次元的な分子配向パターンを自在に制御できる新たな光重合法の開発に成功したと発表した。

同成果は、同大 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の宍戸厚 教授、久野恭平 大学院生、カナダ・マギル大学 化学科のChristopher J. Barrett(クリストファー・バレット) 准教授らの研究グループによるもの。詳細は、米国科学雑誌「Science Advances」(オンライン版)に掲載された。

材料の機能は分子や分子集合体の構造、および配向・配列構造などナノからミクロまでの空間スケールにわたる階層構造によって決定される。液体の流動性と結晶の異方性を有する液晶分子は、外部刺激を加えることで階層構造を制御できるため、さまざまな高機能材料に展開されている。

近年、大面積にわたる二次元的な微細配向パターニングを液晶材料に施すことで、高度な機能創出が実現されるようになってきたが、その方法の1つとして光配向法がある。しかし、原理的に高価な偏光光源と光応答分子の組み合わせが欠かせなかった上に、二次元配向パターンの解像度は原理的にミリスケールのパターンが限界で、かつアレイ状パターンの形成には膨大な時間と光エネルギーが必要であることが課題であった。

今回研究グループは、重合性液晶分子の光重合過程において、光を時空間的に動かすことで、二次元的な配向パターンが一段階で形成できる「動的光重合」を開発した。同手法により、形状・動き・強度といった光照射条件を変調するだけで、さまざまな分子を自在に配向することができる。

既存の手法では、色素分子を添加した結晶系へ強度分布が均一な偏光を照射することで、分子配向を誘起する(A)の手法に対し、動的光重合(B)では、動く光の照射により材料中に定常的な分子の核酸と流動を誘起し、その流れにしたがって分子配向を誘起する (出所:東京工業大学Webサイト)

同手法は、光の動きで分子配向パターンを設計できることから、機能材料を簡便に創成できる利点がある。大面積一軸分子配向フィルムは次世代フレキシブルディスプレイの鍵になる技術として、また大画面らせん状分子配向フィルムは偏光を選択的に回折する偏光ホログラム素子として、さらに放射状分子配向フィルムは偏光が特異的に変化したベクトルビーム作成素子として期待されている。これらの機能材料は、微細化と大面積化の両立や作成プロセスの煩雑さがボトルネックとなっていたが、今回の技術は、これらの材料創成を可能にする基盤技術として有効なものであるという。

動的光重合により形成した配向パターン例。(A)設計した分子配向パターン、(B)動く光の照射パターン、(C)作製した高分子フィルムの偏光顕微鏡観察結果、(C)作製した高分子フィルムの偏光顕微鏡観察結果、(D)アレイ放射状配向を作製するための光照射パターンと偏光顕微鏡観察結果 (出所:東京工業大学Webサイト)

研究グループは、開発した技術に関して、新機能有機デバイス創成への応用も期待できると説明している。さらに、色素も偏光光源も不要であるため、工場の既存製造ラインに適用しやすいという利点から、今後の高精細フレキシブルディスプレイへの応用も期待できるとのことだ。