ヴイエムウェアは昨年にマルチクラウド戦略を打ち出して以来、それを実現するためのソリューションを次々とリリースしている。今回、米VMware クラウド・ネットワーキング担当 最高技術責任者を務めるグイド・アッペンツェラー氏に、同社がマルチクラウド戦略において何を目指しているのか、企業がさまざまなクラウドを併用するメリットについて聞いた。

米VMware クラウド・ネットワーキング担当 最高技術責任者 グイド・アッペンツェラー氏

マルチクラウド戦略で企業インフラのサイロ化を防ぐ

同社は、「Any Device,Any Application,Any Cloud」というビジョンの下、マルチクラウド戦略を推進している。このビジョンは、顧客があらゆるデバイス、アプリケーション、クラウドを自由に利用することを実現するというものだ。

グイド氏は、「われわれのマルチクラウド戦略は、顧客の環境におけるクラウドのサイロ化を回避するためのもの。複数のクラウドを使うことで、テクノロジー、手法、プロセス、チームなどにおいて、サイロ化が起こる可能性がある。顧客は複数のクラウドを使いたいと考えており、われわれはそれをサポートする」と話す。企業において複数のパブリッククラウドが利用されてサイロ化が起こることで、管理と運用が個別に行われて煩雑になるという。

VMwareのマルチクラウド戦略がもたらすメリットの1つは、プライベートクラウド、パブリッククラウドのどちらを選択しても、ストレージ、ネットワーク、コンピューティングというインフラレイヤをフルスタックで提供できる点だ。これを具現化するソリューションが「VMware Cloud Foundation」となる。

VMwareのビジョン「Any Device,Any Application,Any Cloud」

「VMware Cloud Foundation」

グイド氏によると、マルチクラウドを利用するアプローチは2つあるという。1つは、プライベートクラウドとVMwareベースのパブリッククラウドを利用する方法だ。このアプローチを利用すれば、アプリケーションや展開の方法を変更する必要がなく、双方のクラウド間でワークロードを自由に動かすことが可能となる。

VMwareは、マルチクラウドに対し、一貫したインフラと運用を提供しようとしている。「Amazon Web Services、Googleのクラウドサービスは、オンプレミスのワークロードをネイティブに持っていくことはできない」と、グイド氏は指摘する。

マルチクラウドに対し、一貫したインフラと運用を提供していく

マルチクラウドにおける運用管理の課題を解決するコンテナ

もう1つは、コンテナを用いたアプローチだ。コンテナを活用することで、マルチクラウド上にアプリケーションを容易に展開することが可能になる。VMwareのコンテナに対する取り組みが「Pivotal Container Service(以下、PKS)」だ。

PKSは、VMwareとPivotalが今年8月に発表、仮想サーバ「VMware vSphere」上にKubernetesを用いたコンテナ環境を自動構築するソリューションだ。コンテナアプリケーションをオンプレミスとパブリッククラウドにおいて柔軟に移動させることを可能にする。グイド氏は、PKSを「実にクールなソリューション」と称えた。

グイド氏は、マルチクラウド化により、モダンな組織が求められるようになると指摘する。マルチクラウドにおいてはアプリケーションの重要性が高まるため、そのリリースのペースが早まるとともに、開発チームの負荷が高まる。そこで、企業における運用と開発の課題を解決するカギがコンテナを活用したDevOpsとなる。

また、コンテナを利用するとなると、開発者のスキルセットも大きく変える必要がある。スキルセットを変えることは簡単ではない。開発者自身がコンテナを意欲的に使おうという意識がないと、利用は進まないと言える。

導入が進まないコンテナをいかにして導入するか

実のところ、コンテナはここ数年「注目の技術」として注目を集めているが、日本ではあまり導入が進んでいない。

そこで、企業がコンテナの導入をスムーズに進めるためのコツを聞いてみた。まず、実験的なグループを設けて、そこからコンテナの利用を始めて、うまくいったら、組織全体に広げていくとよいという。

グイド氏は、コンテナを利用するためのよいプラットフォームとして、Pivotalが提供しているPaaS「Pivotal Cloud Foundry」を紹介した。同ソリューションはVMware、OpenStack、AWSといったさまざまなクラウド環境で稼働させることができ、新たなサービスの開発から運用までをサポートする。

グイド氏は、日本の企業に対し、「コンピテンシーの部分は開発を行い、それ以外は既存のものを使うという新たな方法もある」と、発想の転換を促す。これは、デジタルトランスフォーメーションにも通じる考え方だ。

コアなアプリケーションは自社で開発するが、それ以外のシステムはSaaSでまかなうことで、IT部門を企業のコアコンピタンスに集中させることが可能になる。

グイド氏はテクノロジーに価値を見出している企業の例として、Teslaを挙げた。電気自動車を開発するTeslaの創始者であるイーロン・マスク氏は「Teslaはテクノロジーの企業、それを生かしてたまたまクルマを作っているだけ」と話しているそうだ。

なお、米国ではコンテナの利用が進みつつあり、ある先進的な銀行では、プライベートクラウドをコンテナだけで構築しているそうだ。また、シリコンバレーの新興企業は「100%、コンテナで構築している」と、グイド氏は話す。

VMwareが企業を対象に行った調査では、3分の2が「複数のクラウドを使いたい」と回答したという。オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドを安全かつ効率よく使うには、今までと同様の運用や管理の手法ではままならないだろう。

VMwareのマルチクラウド戦略は、クラウドを幅広く活用したい企業にとって一助になるのではないだろうか。