理化学研究所(理研)などは10月27日、細胞周期を細かく色分けする新しい蛍光プローブ「Fucci(CA)」を開発したと発表した。

同成果は、理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チーム 宮脇敦史チームリーダー、阪上(沢野)朝子研究員らの研究グループによるもので、10月26日付の米国科学誌「Molecular Cell」オンライン版に掲載された。

細胞は、細胞周期に沿って成長と分裂を実行することで増殖していく。細胞周期は分裂期(M期)と間期から構成されている。M期は比較的短く一定で、この間に有糸分裂と細胞質分裂が起こるため、特徴的な形態を呈するM期の細胞は通常の光学顕微鏡の形態観察で同定できる。一方、細胞はほとんどの時間を間期で過ごし、その間にさまざまな活動を営みながらDNA複製(S期)を行う。S期とその前後のG1期(複製前休止期)、G2期(分裂前準備期)は際立つ形態的相違がなく、通常の光学顕微鏡の形態観察では識別することができない。

同研究グループはこれまでに、細胞周期のG1期を赤の蛍光色に、S/G2/M期を緑の蛍光色に標識する蛍光プローブ「Fucci」を開発していたが、S期とG2期を色分けすることはできていなかった。また、G1期標識の反応にはある程度の時間がかかるため、高速に増殖する細胞種の短いG1期は検出できないという課題もあった。

今回、共同研究グループは、Fucci技術の作動原理である「細胞周期依存的ユビキチン介在タンパク質分解」を多様に改変することで、Fucci(CA)を新たに開発した。Fucci(CA)では、G1期・S期・G2期をそれぞれ赤・緑・黄の3色で識別することができる。通常の光学顕微鏡で蛍光シグナル分布を併せて観察すればM期も識別できることから、4つの細胞周期すべてを光学的に分離することができるようになった。また、Fucci(CA)は分裂直後からG1期を標識できるため、高速に増殖する未分化性マウスES細胞の細胞周期においても、極端に短いG1期を含めて確実に検出できる。

同研究グループによると、Fucci(CA)は哺乳類動物を扱うあらゆる生命科学分野で応用が可能であり、がん、発生・再生研究だけでなく、動物脳における神経新生の検出、あるいは宇宙空間における細胞増殖の観察などにも適用が予定されているという。

細胞周期を可視化するFucci技術の概要。Fucci(CA)は、G1期(赤色蛍光)、S期(緑色蛍光)、G2期(黄色蛍光)と個別に色分けすることができる (画像提供:理化学研究所)