リドリー・スコット監督が1982年に放ち、SF映画界に革命をもたらした『ブレードランナー』(82)。世界中で『ブレラン』チルドレンを生み出した本作の続編『ブレードランナー 2049』(公開中)が35年ぶりに製作されたことは、ある意味、映画界における大事件だった。メガホンをとったのは、『メッセージ』(16)で第89回アカデミー賞監督賞にノミネートされたカナダ人監督ドゥニ・ヴィルヌーヴだ。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

第83回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『灼熱の魂』(10)、ミステリー『複製された男』(13)、サスペンスアクション『ボーダーライン』(15)など、ヒリヒリした緊迫感に息を呑む人間ドラマを手掛けてきたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。今回製作総指揮に回ったリドリー・スコットは、今後の映画界を担うこの若き才能にバトンを渡したのだ。

時代設定は前作の2019年から30年経った2049年。人造人間であるレプリカントと、彼らの犯罪を追う捜査官ブレードランナーとの戦いを描くという設定はそのまま引き継がれ、ハリソン・フォードはブレードランナーのリック・デッカード役を続投し、脇に回った。主人公のブレードランナーKを演じたのは、『ラ・ラ・ランド』(16)のライアン・ゴズリングだ。

完成した映画は、既視感たっぷりのわかりやすいハリウッド超大作とは一線を画し、前作の世界観をさらに進化させた圧倒的なビジュアルと、レプリカントの存在意義にも斬り込んだ重厚な作品に仕上がった。

――まずは、生ける伝説ハリソン・フォードを演出した感想から聞かせてください。

まずは前提として、僕は俳優の仕事をすごく大変だと思っているので、彼らをとてもリスペクトしている。でも、監督として、彼らを恐れてはいけないんだ。

僕はあまりにもハリソン・フォードのファンだったので、正直、今回自分が彼を演出しなければいけないことに戸惑ったというか、その事実を受け入れること自体が大変だったよ(苦笑)。でも、彼にとって私は、監督として必要な存在なんだとちゃんと自分に言い聞かせ、ようやく納得した感じだ。

実際、ハリソン・フォードは非常に心の広い温かい人だったから、すごくやりやすかったよ。でも、いまだにポスターを見て、自分がハリソン・フォードを演出したんだと実感して驚いてしまうんだ(笑)。

――ライアン・ゴズリングの哀愁漂う表情がとても印象的でした。彼とはどんなふうにコラボレートしていったのですか?

ライアンとは、撮影前に時間を取ってたくさん話をしたよ。Kというキャラクターの人生がどんなに悲しいか、彼がどれだけ孤独なのかを話し合ったんだ。実際、ライアンの情熱と妥協の無さは現場でもひしひし感じたよ。

――監督は、レプリカントと人間との関係性をどう捉えて本作を手がけられましたか?

そもそもレプリカントは物なんだ。何かをする目的があって作られたもの。時には人間がやりたくないような作業をする奴隷的な仕事もしてくれる存在だ。だから人間はレプリカントについて同じ市民だとは考えてない。見た目はすごく人間に近いけど、そうではないんだ。

ただ、レプリカントにも感情があり、愛情を抱くこともできる。ただし、経験があまりないので、どうしたらいいのかわからない。まるで大人の身体をした子どものようなものだと思う。

――Kは、人間ではないジョイに日々癒やされています。2人の関係性についても聞かせてください。

ジョイは『ピノキオ』でいえば、ジミニー・クリケット(コオロギ)の役割なんだ。彼を幸せにするために尽力する存在で、なるべくKの欲望に応えようとする。Kがどんどん欲求を高めていくと、ジョイもそれに応えようとして、よりリアルな女性らしくなっていくんだ。

でも、一見リアルな関係性に見えても、最終的に彼女は単なる幻覚だっていうことに気付かされるんだ。

――ピノキオは最後に本当の人間になってハッピーエンドを迎えます。もしかしてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、レプリカントにもそういうふうになってほしいという願望がありますか?

そこはネタばれに関することだから何とも答えにくいな(苦笑)。ピノキオと同じように、今回のレプリカントはすごく自由な意志をもって自分の運命についても受け入れようとするからね。それはまさに美しい人間になるのと同等のことだとも思うよ。

――『デューン 砂の惑星』(84)をリメイクされるとうかがっていますが、こちらはどんな作品になりそうですか?

いや、リメイクするのではなく、原作から新しいバージョンを作るんだ。リメイクは大変だから僕はやりたくないね。でも、原作から新たな脚本を作り、映画化するということで引き受けたんだよ。

――では、全く違う作品になるということでしょうか?

もちろんだよ。同じような映画を撮るなんてつまらないでしょ。だから楽しみにしていてね。

■プロフィール
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
1967年10月3日生まれ、カナダ出身の映画監督で脚本家。『渦』(00)、『静かなる叫び』(09)で注目される。『灼熱の魂』(10)は第83回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネート。続いて『プリズナーズ』(13)、『複製された男』(13)、『ボーダーライン』(15)を監督。『ブレードランナー 2049』の後は、『デューン 砂の惑星(仮)』が待機中。