VR/AR業界のカンファレンス「Japan VR Summit 3」(10月11日~13日)の中で、自動車会社における活用の現状を語るセッション「VR/MRの活用による製造業変革~クルマ造りの生産-設計をつなぐVR/MR~」が行われた。

(左)トヨタ自動車 エンジニアリングIT部 第3エンジニアリングシステム室主幹の榊原恒明氏、(右)本田技術研究所(ホンダ) 4輪R&Dセンター鈴鹿分室 主任研究員 西川活氏

登壇したのは、トヨタ自動車 エンジニアリングIT部 第3エンジニアリングシステム室主幹の榊原恒明氏と、本田技術研究所(ホンダ) 4輪R&Dセンター鈴鹿分室 主任研究員 西川活氏。トヨタ、ホンダにおける活用の現状を語った後、今後の展望について語り合った。

トヨタでは作業検討にMRを活用

まずはトヨタ・榊原氏が、自身が手がけた導入実績について語った。

作業性の検討のフロー

燃料電池自動車「MIRAI」の充電における作業工程

榊原氏は、工場における組み付けの作業姿勢や、水素で稼働する燃料電池自動車「MIRAI」の充電姿勢の検討において、MRを導入している。HMDはCanonのMREALを用いている。既存の3Dモデルを使った検討では膨大な時間がかかり、かつ作業性の検討であるにもかかわらず当事者である現場のスタッフが理解できないという難点があったが、そうした部分を解消できたという。

設備のレビューでMREALを用いた。作業負荷の測定は、体にモーションセンサをつけ、動きにリアルタイムで点数化した

MREALを使うことで得られたメリット

VRではなくMRを選んだ理由として、視界が完全に遮られず現実の延長として自由に動いて見られること、体験している人自身の「手」を使った体感で把握できること、そして視覚・聴覚をふさがないことで複数人での検討がスムーズに行えることを示した。現状、社内の4~5カ所、設備設計や工場で利用しているという。ここではMREALを用いたMRの導入が語られたが、デザイン関係では大型スクリーン+メガネで立体視するタイプはすでに活用しているという。「道具がまだ完璧ではないので、使い分けは当然かと考えています」(榊原氏)

立体視システムで起こる距離感の狂いが酔いや違和感を誘発するが、MREALでは自分の手を指標とできることによって補完できる、と榊原氏

「MIRAI」の充電姿勢の検討では、MRを使うことで、動作時の手足の置き場、作業車から見える箇所がわかるようになった。これにより現状の設計では作業がつらいとわかり、10cm以上高さを上げればより楽に行えることが判明した。また、HMDが2台あると他人から見た状態もわかり、プロジェクタに映すことでさらに他の人も動作を確認することが可能になる。

楽に作業できる姿勢の検討を行った

現場からのフィードバックで、作業姿勢においては即断即決、働き方改革に使えるという大変ポジティブな反応が返ってきた。結果として、デジタルで判断できていたところをさらに補う効果を出したという。

インパクトドライバを用いた干渉チェックも行える

また、MREALの本体は競合HMDと比較して大変高価だが、費用対効果で見て、1年程度の活用で回収できたとも付け加えた。

そして、こうした活用のやり方はVRでは難しいと考えているそうだ。実際、MREALを使った人たちにVRで類似の検討を体験してもらったところ、感触が良くなかったのだという。一番のネックは、ディスプレイに目の焦点が合ってしまうことで、奥行きの知覚が狂ってしまったこと。MRでもディスプレイを見ることにはなるが、自分の手を視認することで狂いを補正できると考えている。

最後に、「VRでもMRでも、3D酔いが心配」と、技術面でのデメリットにも言及した。特にVRに対して、新技術に膨らみすぎた期待がかけられており、事故が起こった場合もその期待が反転してしまう危険性を示唆した。トヨタでは、事故を防ぐために連続利用時間などを定めた社内規則をすでに作成している。

榊原氏は、「VRもMRも将来ある技術、根付かせていきたい」と強調した上で、会場に集まった技術者たちにメリットばかりでなく、リスクを勘案した運用をと呼びかけた。