今360度カメラが注目されている理由の1つが仮想現実 (VR)である。Woodman氏も「VRは大きな可能性を秘めている」と認めていたが、「問題はそれがいつそれが開花するかだ」とつけ加えた。すでにVRを体験することはできる。だが、高性能なVRヘッドセットを所有している人は少ない。VRヘッドセットを使わなくても、360度動画を視聴することはできるけど、VRヘッドセットのような没入感はなく、操作が面倒で、360度動画は魅力あるコンテンツになっていない。360度動画で爆発的にシェアされているコンテンツに出会わないのが、その証拠である。

一方、携帯で簡単に高画質な動画を撮影できるようになって、これまで以上に動画は撮影・共有され、視聴されている。いずれ簡単にVRの世界で360度動画を楽しめるようになると予想されているが、従来の動画からVRが主流になるまでには長い時間がかかるだろう。だからといって、360度カメラの価値が引き出されないのはもったいない。360度動画からでしか作れないようなHD動画を作成できるOverCaptureは、その移行期間の溝を埋める有効なソリューションになる。

「HERO6 Black」、外観はHERO5と見分けられないほど変わっていないが、そのためバッテリーを含めてHERO5とアクセサリを共有できる

FUSIONが新しいアクションカムの提案であるのに対して、「HERO6 Black」は一言で言い表すと「手堅いアップグレード」だ。製品の概要は既報の通り。外観は変わっていないが、中身は大きく進化しており、「GP1」というGoPro独自開発のプロセッサを搭載し、4K/60pの動画撮影やフルHD/240pのスローモーション動画撮影に対応する。また手ブレ補正機能が強化され、タッチ操作によるデジタルズームも可能になった。

実際に使ってみると、HERO6はカメラとしてよくできた製品だった。「HERO3」シリーズや「HERO4」シリーズはよく売れたが、アクションカムとして優れた製品であり、暗いシーンが苦手で手ブレ補正がないなど通常のカメラの代わりになるようなものではなかった。アクションカムである分、通常のカメラとして使うには犠牲になっている部分があり、ユーザーを選ぶカメラだった。HERO6は、HERO5で加わった手ブレ補正に明らかな強化の成果が見られ、通常のカメラを使うのに近い感覚で簡単に安定した動画を撮影できる。これならアクションカムと身構えることなく、誰でも小さくて軽く頑丈なカメラのメリットを楽しめそうだ。

GoPro製品を使っているアスリートやコンテンツクリエイターも参加した発表会はコンサートのような盛り上がりだった。特に米国ではユーザーの心をがっしりとつかんでおり、そのブランド力もGoProの大きな強みになっている

アクションカム市場に参入してくるカメラメーカー大手、防水・防塵化されるスマートフォンなど、競争激化によって今GoProは厳しい状況に置かれている。そうした中で、同社が新たな成長を生み出すためにやるべきことは明らかだ。GoProのアクションカムのユーザー層をより一般のカメラユーザーに拡げること、そしてHEROシリーズをレガシーにするような新たな製品の実現である。HERO6 Blackは前者、そしてFUSIONは後者の製品であり、現在のニーズに応え、将来も見通した明確な答えをGoProは用意した。あとは新たなツールを得たユーザーが、どのようなコンテンツを生み出すか……だ。GoProの熱心なファンは、特にGoProの新たな展開に期待しているだろう。見方を変えると、FUSIONがHEROキラーになってこそGoProの新たな可能性が広がる。それを実行しているのだから、思い切った製品戦略である。だが、HEROシリーズの最大のライバルをGoProが作ることこそ、GoProユーザーがGoProに最も期待していることなのだ。