2011年に提唱されたCSV(Creating Shared Value)。「共通の価値創造」という意味だが、企業が持つ知識や資源を活用し、ビジネスを推進しながらも地域・社会貢献につなげていくと考えればわかりやすい。今、このCSVに取り組む企業が増えている。

一昔前までは企業CSRという考え方が主流だった。社会や環境、取引先、自社社員などに対し貢献を行い、社会的責任を果たしていくというのがCSRだ。ただこの場合、CSRのための予算や人的リソースなどの確保が必要となり、しかも企業の利益に直結しない。社会貢献で企業イメージが向上し、結果的に業績に反映するかもしれないが、あくまでそれは副次的なものだ。

一方、CSVは企業の生産性・競争力を向上させながら、社会の問題を解決していく。CSRとCSVは字面は似ているが、根本的に異なるものだ。このCSVに早くから取り組んだ企業がある。酒類・飲料大手のキリンだ。

組織一新の際にCSVの概念を導入

キリンは2013年に組織を一新し、それまで別々の経営体制だったキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンを統合。その際に、経営にCSVという概念を導入するため、CSV本部を立ち上げた。そして現在、「健康」「地域貢献」「環境」の3本柱を軸にCSVを推進している。

そんな同社から、「弊社のCSVの一部を見学しませんか」というお誘いをいただいた。「はて、どんなCSV活動だろう? 堅苦しい内容だったらお誘いをお断りするかな」などと、一瞬思った。だが、ハナシを聞くと実に興味深い内容だった。

見わたすかぎりブドウの樹が広がる。右は農園入り口のオブジェ

そのCSVとはこうだ。キリン傘下のメルシャンは、長野県にいくつかブドウ農園を持っているが、そのうちのひとつ、上田市・椀子(マリコ)の農園が舞台。この農園は1999年に拓かれたもので、メルローやカルベネ・ソーヴィニヨン、シラー、シャルドネといったワイン用ブドウの主力を育てている。

この農園で行われているCSVとは、日本在来の既存種・希少種といった植物を再生・保存すること。かつては遊休農地だったこの場所をブドウ農園として造成したことで、希少な植生が戻ってきたという。

2016年に農研機構・農業環境変動研究センターの研究員を招聘し、生態系調査を実施。希少な植生を発見したことを受け、キリンの従業員参加による再生・保存活動が行われている。今回、招待されたのは、この活動の見学だった。