あれこれ工夫して調理しても、なかなか食べてくれない。離乳食ストライキは原因がわからないだけに、悩みも広く、深いもの。実は味付けや調理法と同じくらい大切なのが「与える環境」だという。今回は意外と知られていない「離乳食の上手な与え方」について、乳幼児の食に詳しい管理栄養士で、各大学で講師も務める太田百合子先生に聞いてみた。

離乳食の上手な与え方とは?

正しい姿勢で座れる椅子を選ぼう

離乳食をあげるとき、赤ちゃんはどんな姿勢で座っているだろうか。まずはこの「姿勢」が第1のポイント。まだ背筋がしっかりしていない時期に固形物をあげると、食べ物が食道ではなく、気管に入ってしまう恐れがある。つまり「誤燕」を引き起こす可能性があるのだ。まだきちんと腰が座っていないようであれば、お母さんが抱っこして赤ちゃんの体を安定させる。もしくは姿勢を正して楽に座れるようなベビーチェアを選ぶことが大切だ。

さらにチェックすべきは、テーブルと椅子の高さ。座板は赤ちゃんの肘がテーブルに着くように、足置き板は足裏がぶらぶらせずに、しっかりと着く高さに調節しよう。「足の裏が床に着いていると、前かがみになって噛む力が増します。赤ちゃんは特に食べる環境を整えてあげることで食欲増進につながります」(太田先生)。

与えるときは赤ちゃんの目線より下に

与え方にもコツがある。与えるときは、赤ちゃんの目線よりも上の位置から口に向かってスプーンを降ろすのはNG。これは大人でも同様だが、上から迫ってくるものに対しては誰しも恐怖心を抱いてしまう。できれば赤ちゃんの目線よりやや下の位置にスプーンを差し出し、赤ちゃんの下唇の上にそっとのせて、自ら食べ物をとらえる力を引き出すようにすると良いだろう。

その際は、口の奥までスプーンを差し入れないこと。赤ちゃんが異物感を覚え、拒否反応を示すこともあるからだ。「むしろ、赤ちゃんをスプーンで誘うようにすると良いでしょう」と太田先生。前かがみになって「ちょうだい、ちょうだい」という姿勢になればベスト。

大人は赤ちゃんの目を見て「おいしいよ」「もぐもぐ上手だね」など言葉かけをしながら、少量ずつ与えよう。赤ちゃんと一緒に食事の時間を楽しむことで、「食べることは楽しいことだ」と伝えることができる。言葉かけをせず、早いペースで次々とあげていると、赤ちゃんの姿勢はだんだん反り返り、場合によってはのどに詰まらせる恐れがあるので注意しよう。

食器やカトラリーの選び方は?

赤ちゃんの月齢によっても異なるが、もともと大きな口の子もいれば、おちょぼ口の子もいる。広めのスプーンだとうまく食べ物をとらえられないので、最初は幅の狭いものを用意してあげると安心。材質は基本的に何でも構わないが、できれば温度変化の少ないプラスチックや木製がオススメだ。

与える前に、食べ物の温度が適切かどうかを必ずチェック。熱すぎると火傷をしてしまうし、冷めすぎていても食欲を刺激しない。大人が手の甲にのせて、ほんのり温かいと感じるくらいに調整しよう。

ベビーフードを活用してもOK

市販のベビーフードの活用になんとなく抵抗感のある人もいるかもしれないが、問題はなさそうだ。国の方針にのっとってつくられ、栄養価はもちろん、最近は月齢ごとに硬さや形状などがよく研究されているものが多い。

「月齢が高くなるにつれ、栄養摂取が重要になってきます。仕事などで忙しく、なかなか離乳食をつくれない人はベビーフードを上手に活用しましょう」と太田先生。離乳食づくりでストレスを抱えるよりは、お母さんがにこやかでいること、赤ちゃんが満足に食べられることの方が大事。手づくりにこだわりすぎる必要はないそうだ。

それでも、なかなか食べてくれないときは、外出するのも手。「児童館や子育て支援センターなどに行って、ほかの人がいる中で与えてみてはどうでしょう。環境が変わると赤ちゃんの気分も変わってすんなり食べることもありますよ」と太田先生。

家だと母乳ばかり欲しがる子が、外だとあまり欲しがらないというケースも。赤ちゃんだけでなく、お母さんの気分転換にもなり、同じ悩みを持つお母さんとの情報交換もできる。さまざまな意見を参考にしながら、離乳食ストライキを上手に乗り越えてほしい。

※画像はイメージ

太田百合子先生 プロフィール

東洋大学、東京家政学院大学など非常勤講師・管理栄養士。「こどもの城」小児保健クリニックを経て、現在は大学などの非常勤講師、指導者や保護者向け講習会講師、NHK子育て番組出演や育児雑誌などの監修を務めている。主な役職は、日本小児保健協会栄養委員会、東京都小児保健協会理事、日本食育学会代議員など。監修した著書は「はじめての離乳食 前半5~8ヶ月ごろ」(学研プラス)、「初めての幼児食 最新版」(ベネッセコーポレーション)など多数。