北海道大学(北大)は、川の中の藻類生産の増加は,羽化昆虫を介して陸上捕食者の増加をもたらすだけでなく,砂礫河原上のエサ資源の減少にまでつながることが明らかになったと発表した。

同成果は、北海道大学大学院農学研究院の照井慧氏、中村太士氏、同地球環境科学研究院の根岸淳二郎氏、渡辺のぞみ氏らの研究グループによるもの。詳細は生態系生態学に関する国際誌「Ecosystems」に掲載された。

河川内の藻類生産が、砂礫河原上の食う-食われる関係に及ぼす影響 (出所:北海道大学Webサイト)

多くの生態系は、別の生態系から運ばれてくる栄養やエサ資源に支えられている。例えば、河畔域に生息する陸上捕食者(鳥、昆虫など)は、陸上のエサ資源に加え、河川から羽化してくる水生昆虫をエサとして利用する。しかし、この系外資源を通じた「生態系間のつながり」は広く知られているにもかかわらず、系外資源を供給するドナー生態系で生じた変化が、系外資源を受け取るレシピエント生態系にどれほどの影響力を持つのかは明らかになっていなかった。

今回の研究では、河川生態系(水生昆虫を供給)および、隣接する砂礫河原(オサムシ科甲虫が水生昆虫を食べる)を対象に、河川生態系の1次生産(河川内の藻類の量)の変化が、陸上生態系に及ぼす影響を調べた。具体的には、「河川内の藻類の増加から、陸上へ羽化する水生昆虫の増加、羽化昆虫・陸上資源の双方を食べるオサムシ科甲虫の増加、陸上エサ資源の減少が加速」という仮説が正しいか検証した。

検証方法は、北海道十勝川流域の3河川16砂礫河原で、河川内の付着藻類量、羽化昆虫量、砂礫河原のオサムシ科甲虫密度、砂礫河原上のエサ資源の減少速度を調べた。この際、付着藻類量が多い河川から少ない河川まで幅広く調査できるよう、町からの排水により極端に富栄養化した(付着藻類量が多い)河川区間も調査対象としている。また、砂礫河原上のエサ資源の減少速度については、人為的にエサ資源(甲虫の幼虫)を砂礫上に置き、1日当たりの減少量を調べた。それぞれの変数に影響しうる要因(調査時の気温など)とあわせて、パス解析という統計解析を施した。

解析の結果、川の中の藻類生産の増加は、羽化昆虫を介して陸上捕食者(オサムシ科甲虫)の増加をもたらすだけでなく、砂礫河原上に設置したエサ資源の減少にまでつながることがわかった。この結果は、ドナー生態系の1次生産の変化が、レシピエント生態系の食う-食われる関係を変えるほどの影響力をもつことを示しているという。

今回の成果を受けて研究グループは、林から川へ落ちる枯葉、産卵のために海から川へ上るサケ、土中から地上へ羽化する昆虫。これらはすべて、生態系をつなぐエネルギーの流れとしてみることができる。同研究が示した「ドナー生態系で生じた変化が、レシピエント生態系の食う-食われる関係を変える」という現象は、普遍的に起きている可能性があるとコメントしている。