テキサス大学オースティン校天文学科の平野信吾氏(日本学術振興会海外特別研究員)

東京大学と京都大学を中心とする研究グループは、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションにより、ビッグバン後の超音速ガス流から太陽の3万4,000倍もの重さをもつ巨大ブラックホールが誕生することを明らかにしたと発表した。同成果は、若い宇宙に見つかっている超大質量ブラックホールの起源を解明した貴重な例となる。

同成果は、テキサス大学オースティン校天文学科の平野信吾氏(日本学術振興会海外特別研究員)、京都大学理学研究科の細川隆史 准教授、東京大学大学院理学系研究科の吉田直紀 教授らによるもの。詳細はアメリカ科学誌「Science」(オンライン版)に公開された。

宇宙初期のミステリーを解く鍵は「超音速ガス流」

近年、遠方の宇宙探査により、宇宙年齢が数億年という早期に存在した超大質量ブラックホールが発見されている。太陽の数十億倍もの超大質量ゆえに「モンスターブラックホール」と呼ばれるが、そのような早期に、どのようにして巨大なそれが誕生したのかは天文学上の大きな謎であった。

その起源についてはこれまでいくつもの仮説が提案されてきたが、どの説も太陽の数十億倍にもなる超大質量ブラックホールの早期形成を自然に説明することはできず、物理的にはあり得ないほどの質量増大率を仮定し、巨大な天体を偶然生み出すなど、さらにいくつかの物理機構の過程が必要だった。

今回研究グループは、ビッグバン後に、さまざまな天体を生み出す種となる物質密度の揺らぎと共に残された「超音速ガス流」に着目し、「アテルイ」をはじめとするスーパコンピュータシミュレーションを用いてガスとダークマターの両方の運動を追い、さらに乱流ガス雲から原始星が誕生して急速に成長する様子を再現することに成功した。

宇宙初期、ダークマターの塊ができ、そこへガスが集まり天体が誕生する

ビッグバン直後はガスの風が存在している

シミュレーションによりブラックホール誕生の瞬間を再現

「アテルイ」をはじめとするスーパーコンピュータシミュレーションを行った

宇宙初期、ガス流速度が大きな部分では高速のガスは宇宙を満たすダークマターに捕捉されず流れ続ける。そのため、天体の形成はなされない。ダークマターはその重力によって収束することができ、宇宙年齢が1億年のころ、ダークマターがあつまり、太陽の2,000万倍もの質量をもつ巨大な「ダークハロー」が形成される。そこで高速のガスを捉え始め、ダークハロー内で最終的にブラックホールを生み出すガス雲は、乱れた形状を保ちながら急速に収束する。

宇宙初期、ガス流速度が大きな部分では高速のガスはダークマターに捕捉されず流れ続ける。そのため、天体の形成はなされない

宇宙年齢1億年のころ、ダークマターが集積して太陽の2,000万倍もの質量をもつ巨大な「ダークハロー」が形成されてはじめて高速のガスが捉えられ、天体の形成が始まる

太陽の数万倍もの質量を持つ乱流ガス雲の中では、誕生した原始星へ向けて高速のガスが流れ込み続ける。激しいガスの降着は中心星の表面を膨張させるため、表面からは可視光などのエネルギーの低い光が放出される。このため、流入するガスを加熱して吹き飛ばすという、星の成長の自己抑制機構は働かず、最終的にはガス雲全体が中心星に取り込まれ、巨大なブラックホールへと変貌する。

写真右側がダークマターで、青色部がガス。中心部で星が誕生していることが分かる

星が誕生したのちも、高速のガス流入は続き質量は増大していく

乱流ガス雲の中で成長し太陽の3万4,000倍もの質量をもつようになった巨大星は、その一生の最期に同質量の巨大ブラックホールを遺す。宇宙初期に誕生した巨大ブラックホールは、さらにその後数億年ほどガス降着やブラックホール同士の合体を経て成長し、太陽の10億倍以上もの超大質量ブラックホールへと進化することができるという。

加えて、ダークハローの形成時期や超音速ガス流の速度分布を理論的に求め、超大質量ブラックホールのもととなる巨大ブラックホールが宇宙に現れる確率を見積もったところ、これまでに発見された超大質量のブラックホールの観測数と一致することも分かった。

同結果に対して研究グループは、米国NASAが2018年に打ち上げ予定の「ジェームスウェッブ宇宙望遠鏡」や、将来の重力波観測衛星を用いた遠方宇宙探索により、宇宙初期のブラックホールを発見することで、ブラックホール成長の様子が実際の観測から示されることを期待しているとコメントした。