「レガシーというマインドセットを変えたい」と話すのは、CEOとして、1年半前に米Symantecから分社した米Veritas Technologiesを率いるBill Coleman氏だ。今年9月、Veritasが米ラスベガスで開催した「Veritas Vision 2017」で、Coleman氏に、同社が「360度情報管理」として進める情報管理ベンダーへの転身を中心に話を聞いた。

米Veritas Technologies CEO Bill Coleman氏。Webアプリケーションサーバー「WebLogic」のBEA Systems(現Oracle)を共同創業するなど業界のベテランだ

--分社化から1年が経過した。これまでの取り組みにおける成果をどう見ているか?--

Coleman氏: Veritasとしてスタートして、ちょうど20カ月を迎えた。

この間やってきたことは、製品プロフィールの再構築だ。顧客はこれまで以上に複雑なガバナンスの問題を抱えており、デジタルトランスフォーメーションという課題もある。複数のクラウドを利用するマルチクラウドにより、さらにITの複雑性が増す。

Veritasはバックアップ、リカバリ、アーカイブ製品を提供するベンダーとして知られているが、分社時、製品はリリースから10年、20年と古く、アップデートされていないものもあった。当然、モダンなワークロードに対応しておらず、クラウドもきちんとカバーしていなかった。そこで、統合プラットフォームという戦略を立てた。マルチクラウドの世界をエンドツーエンドでサポートするというものだ。

新戦略の下、この1年で新たに7製品を投入した。実にVeritasにとって10年ぶりの新製品となった。ソフトウェア定義ストレージのポリシー、オーケストレーションを組み込んだものだ。出荷を2016年12月に開始し、2017年5月には初の「360 Data Management Platform」を発表した。

クラウド事業者との提携も進め、Amazon Web Services、Google、Microsoft、IBMと情報管理の分野で提携している。Veritas VisionではMicrosoftとの提携をさらに強化する発表を行った。クラウド、SaaSアプリケーションにあるデータも含めて、視覚化、カテゴリ化、分析などが行えるようになる。

製品の提供形態についても、これまでの永久ライセンスに加えてサブスクリプションも用意した。これらにより、顧客が求めているものを提供できる体制が整った。データの保護だけでなく、より大きな問題を解決できる。

25億ドルのスタートアップとしてVeritasをトランスフォームしてきたが、終わりはない。結果は少しずつ出ており、財務面ではこの1年で税引き前純利益を8%改善している。非常に高収益な組織となった。先に開かれたCarlyle Group(VeritasをSymantecから取得した投資会社)の年次カンファレンスで、Veritasは成功例の2社のうちの1社に挙がった。

--社内の組織やカルチャーは、どう変わったか?--

Coleman氏: マネジメント体制も変更し、顧客ファーストを組織全体に浸透させている。分社化する前の10年は、主としてライセンスのリニューアルで収益を得ており、顧客にフォーカスしていなかった。また、製品マーケティングとエンジニアリングが顧客とやりとりしないという変なルールもあり、この辺りを変えた。まずは、製品開発が新製品開発時にアジャイルな感覚で早期段階から顧客と協業するようにした。顧客のすぐ横で作業することで、早期にフィードバックを得て改善できる。例えば、T-Mobileのシステム子会社であるT-Systemsとは、同社が「Veritas Resiliency Platform」を土台にディザスタリカバリーをサービスとして提供するにあたって協業した。

われわれは製品開発への投資を強めており、今年はR&Dへの予算として当初の計画に9900万ドル上乗せした。これにより高速にプラットフォームを構築できる。スタートアップのように高速に動く組織を作っており、スナップショットのデータ保護製品「CloudPoint」はマイクロサービスアーキテクチャを利用して開発した結果、わずか6カ月でアイデアから正式版として出荷することができた。

同時に、これまで通りグローバルのシステムソフトウェア企業のサポートとサービスも提供する。ここでも顧客ファーストを徹底させており、その結果、顧客満足度のスコアはとても高いものになった。セールス担当のトレーニングでは、製品のトレーニングではなく、マルチクラウドのデータ管理、GDPR(「EU一般データ保護規則』)、データストレージマイグレーションなど、5種類のソリューションをカバーしている。

われわれが目指すのは顧客が信頼できるパートナーであり、顧客ファーストが大切な考え方となる。

システム側では、当社自身もクラウドを全面的に受け入れている。2016年10月よりクラウドに切り替えており、データセンターは持たない。ほとんどがIBM Cloudであり、サブスクリプションとマネージドサービスを利用している。

主要なクラウドをすべて検討したが、IBMを選んだ理由は、拡張性と信頼性など、われわれが必要としている特徴やサービスを提供しているのは同社だけだったからだ。

--AIの取り組みについて教えてほしい--

Coleman氏: われわれが機械学習や予測分析のアプリケーションを構築することはない。これはサードパーティの役割であり、テレコムなど垂直型で業界固有の問題を解決するような機械学習や予測分析の開発を行ってもらう。2018年にはRestful APIを公開し、SDKも提供する。これにより、顧客はこの上にアプリケーションを構築できる。

当社の取り組みとしては、機械学習を製品に組み込むこと。それにあたり、この分野の専門家2人を起用して5人のグループを作った。スタンフォード大学と提携し、さまざまな製品グループからデザインレベルのエンジニアを23人に機械学習トレーニングを受けてもらっている。インストールやモニタリングが簡単にできるようにしていく。

--競合はどう見ているか? Veeamなどが積極的に対抗しており、Veritas自身も基調講演でDell EMCに対して攻撃する場面もあったが--

Coleman氏: VeeamはVMwareとの親和性が優れた製品により、ローエンドに訴求しているようだが、クラウドカンパニーではない。この時代、クラウドなくしては、市場に参加することはできない。実際、エンタープライズではVeeamの名前は聞かない。プラットフォーム市場でメジャープレイヤーではないようだ。Dell EMCは現在でもハードウェアから多くの収益を得ている(継続して、ハードウェアのリフレッシュサイクルを強いる)。