Microsoftは2017年9月25日から29日(現地時間)まで、ITプロフェッショナル向けの「Ignite 2017」とITリーダー向けカンファレンス「Envision 2017」を、米フロリダ・オーランドで開催した。今回は両イベントの基調講演で語られた内容をご報告する。メインスピーカーを務めたMicrosoft CEOのSatya Nadella氏は、「デジタル技術は、社会と経済のあらゆる側面に影響を与え、すべての組織に前例のない機会を提供している。我々はビジネス製品およびソリューション(Microsoft 365、Windows 10、Microsoft Azure、Dynamics 365、Microsoft AI)でMR(複合現実)やAI(人工知能)を活用しながら世界中の最前線に変革をもたらし、世界中の顧客やパートナー、開発者の創造性を支援する」と述べた。

Microsoft CEOのSatya Nadella氏

Nadella氏は"モダンワークプレース(現代的な職場)"について、「仕事の性質が変わりつつある。毎日のルーチンワークではなく、個人の創造性をチームに広げるためには、すべてをシンプルにしなければならない」と語っている。その1例としてFordによるMicrosoft HoloLens(以下、HoloLens)の事例を紹介した。これまでFordは5,000ポンドにおよぶ粘土で自動車のサンプルモデルを作成し、担当者がいる場所へ次々と持ち運ぶ必要があったという。そこでFordのデザイナーとエンジニアチームはMicrosoft 365(Microsoft Teams)とHoloLensを使ってオンライン会議や、ストーリーボードから引き出した配色の変更、ミラーの角度調整といったデザインアイディアの試作・検証が可能となり、数千ドルのコスト削減に成功した。デモンストレーションを担当したMicrosoft Product Marketing Manager to Microsoft TeamsのRaanah Amjadi氏は「Fordの各チームはグローバルで共同作業を行うため、厳しい開発期限を定められているが、HoloLensやMicrosoft Teamsで共有体験が可能になり、レビュー時間を大幅に削減できる」と説明している。

Microsoft Prodcut Marketing Manager to Microsoft TeamsのRaanah Amjadi氏

HoloLensを使ってカラーリングやパーツの位置調整などを変更していた

Windows Mixed Realityデバイスを使って遠隔地からのリモート会議に参加するデモンストレーションも披露

Microsoft TeamsにMRデバイスを使った会議の結果をアップロードし、参加者どうして共有できる

次にNadella氏が掲げたのが「AIファースト」。CEO就任当時に標榜した"モバイルファースト&クラウドファースト"を彷彿させるが、以前買収したLinkedInとMicrosoft Graph(365)を融合し、社内外の関係や成果物、ドキュメントといった資産を有効活用できると同氏は説明する。「リッチなデータセットで付加価値を付与できる。これがMicrosoft 365の展望」(Nadella氏)だと、単にOffice 365とWindows 10 Enterprise(Business)、EMS(Enterprise Mobility+Security)とセットにしたパッケージでないことを強調した。

Microsoft 365とLinkedInの融合でデータ資産の価値が高まるとMicrosoftは説明する

Microsoft AI&Research Partner Group Program ManagerのLi-Chen Miller氏は、Outlookで送信相手の情報をLinkedInから取得する「People Card」から相手の経験や学歴、外部パートナーの情報を確認するデモンストレーションを披露。「Bing for Business」は文字どおり企業向けの検索ソリューションとして、SharePoint ServerやAzure AD(Active Directory)と連携し、企業リソースから情報を得る。また、管理者向けのダッシュボードでは、利用者の検索内容やクリック数などを元にBing for Businessをカスタマイズし、利用者に適切な洞察を与えることが可能になるという。Miller氏は最後にCortana搭載のスマートスピーカーを利用し、音声で有給休暇の取得とメールの自動応答設定を行っていた。これらのMicrosoft GraphとLinkedInの統合は第1段階であり、さまざまな方法で仕事の関係図や各データを組み合わせることで、ワークプレースの変革が可能になると将来的展望もNadella氏は示した。

Microsoft AI&Research Partner Group Program ManagerのLi-Chen Miller氏

Outlookで利用可能になったPeople Card

企業データの検索を可能にするBing for Business

Bing for Businessの管理者ポータルでは、検索結果などの可視化やカスタマイズが可能

ビジネスアプリケーション分野ではDynamic 365とMicrosoft Graphの連携を披露。こちらもAIファーストというコンセプトから、Microsoft 365およびLinkedInを基盤とし、Microsoft Graphの恩恵を受ける形でPower BIやFlowといったアプリケーションを基盤上に構築できる。企業文化に沿ったビジネスアプリケーションを開発することでモダンなワークスタイルが可能になるとNadella氏は語る。その1例として、HPが導入したDynamics 365 for Customer Serviceを披露。HPは年間6億件の連絡を仮想エージェントが対応し、そこで解決できない場合は人間のスタッフが登場する。HPの説明によれば70~80%がAIで対応可能になったという。

先の図にDynamics 365との連携を加えたイメージ図。すべてMicrosoft Azure上で動作する

HPの仮想エージェントによるカスタマーサポート。Dynamics 365 for Customer Serviceを利用している

後は導入事例や量子コンピューティングへの取り組み紹介のため割愛するが、プレスリリースによれば、多くの新製品やソリューションを発表している。名前を並べるだけでもMicrosoft 365 F1、Microsoft 365 Education、Microsoft 365を搭載した新Windows 10Sデバイス、Microsoft TeamsによるSkype for Business Onlineのサポート、Microsoft Dynamics 365 AIソリューション、Dynamics 365 for Talentのモジュールサポートと枚挙に暇がない。クラウド方面でもAzure Machine LearningやMicrosoft Cognitive Serviceのアップデートが発表された。また、各機能のプレビュー版公開やGA(一般提供版)に関する詳細は公式ブログを合わせて確認することをお薦めする。これら新情報の一部は日本マイクロソフトが2017年11月8~9日に都内で開催する「Microsoft Tech Summit 2017」で披露する予定のため、機会があれば本誌読者にご報告したい。