海水浴に行って泳いでいると、温かかった水が急に冷たくなることがある。温かい水と冷たい水の境目が体を通り過ぎたのだ。熱い湯が流れ込む温泉の湯船でも、上と下とで水温はかなり違っている。かき混ぜないと、全体が同じ温度にならない。水というのは、けっこう混じりにくいものだ。

図 亜熱帯の巨大な水の塊「亜熱帯モード水」の概念図。左が太平洋で、右が大西洋。冬に海面が冷やされて水深数百メートルまでかき混ぜられ(①)、春から秋にかけて、南に潜行して広がる(②)。(杉本さんら研究グループ提供)

亜熱帯の海中には、周りとあまり混じらずに潜行している巨大な水の塊がある。数千キロメートルもの広がりを持つ水の塊が、まるで巨大な潜水艦のように、海面から数百メートルの深さをゆっくりと動いていくイメージだ。この水の塊を「亜熱帯モード水」という。たとえば、日本列島の南岸を北に流れている黒潮の南側の海域にできる。

海の水温は、海面が温かくて、深くなるほど冷たくなっていくのが基本形だ。ところが、亜熱帯モード水は、深さによらず水温がほぼ一定だ。その点で、周りとは性質が違う特殊な水の塊なのだ。

いま、地球温暖化で海水温は上昇している。だが、一定の海域で水温の変化を追跡しようとすると、年によって、たまたま温かい水や冷たい水がその海域に入り込んでいる可能性がある。かりに全体としては水温の変化がなくても、その海域の水温だけが、たまたま高かったり低かったりしているのかもしれない。

それに対して、この亜熱帯モード水は、これから説明するように、規模の大小はあっても、ある決まった仕組みで毎年できる。だから、その水温を昔と今とで比較すれば、亜熱帯の海中がどれだけ温まってきているのか、その正味がはっきり分かるのではないか。

東北大学の杉本周作(すぎもと しゅうさく)助教らの研究グループが、黒潮の南に広がる亜熱帯モード水の水温を過去約60年にわたって調べたところ、100年あたり1.1度の速さで水温が上がっていることが分かった。亜熱帯モード水は、深さ100~400メートルくらいに分布していた。世界の海面水温は平均で100年あたり0.5度の上昇なので、亜熱帯の海の中は、その2倍の速さの水温上昇だったことになる。

亜熱帯モード水は、冬にできる。海面の水が冷え、重くなって沈降すると、上下がよくかき混ぜられて、水深数百メートルくらいまでの水温が一定になる。ところが、春になって海面が温まると、もう水は沈降しない。冬季にできた水温一定の巨大な水の塊は、ちょうど温かい水で海面にふたをされたような状態で、そのまま海中をすこしずつ南に流れる。

水温や塩分を測る使い捨てのセンサーが開発されて海洋観測が充実してきたのは、1970年ころからだ。杉本さんらは、亜熱帯モード水が持つ独特の性質に注目することで、それ以前のまばらな観測データも使うことができた。こうして、長期にわたる亜熱帯の水温の変化傾向が初めて明らかになった。

北大西洋の西岸にも、「湾流」という強い海流が黒潮と同じように流れている。杉本さんらによると、その南側にできる亜熱帯モード水も、100年あたり1.3度の速さで温まっていた。北太平洋に限った話ではなかったのだ。

ちなみに、この「モード水」という風変わりな言葉は、統計学に関係がある。多くの数値の集まりを代表する値としてよく使われるのが「平均値」。すべて足して、その個数で割る。このほか「中央値」「モード」もあり、「モード」は、いちばんたくさん登場する数値のこと。モード水は水温がいたるところで一定なので、観測すると、その決まった水温の値がたくさん得られる。同じ水温や塩分の値がたくさん得られる水の塊という意味で、「モード水」と名付けられたのだという。

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