自分の家族がある日急に”侵略者”に乗っ取られてしまったら……という非現実的な設定を、現実的な状況として描き出した映画『散歩する侵略者』。劇団「イキウメ」の同名舞台を実写映画化し、長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己、高杉真宙、恒松祐里など実力派キャストが集結した。

ハリウッド作品やアニメなどでは人気でありながら、邦画ではなかなか類を見ない”侵略SF”というジャンルを実現した同作。脚本も務めた黒沢清監督に、作品に惹かれた点やキャストの印象について話を聞いた。

■黒沢清
1955年生まれ、兵庫県出身。1983年、『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。『CURE』(97)で世界的な注目を集め、『回路』(00)では、第54回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。以降も、第56回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『アカルイミライ』(02)、第64回ヴェネチア国際映画祭に正式出品された『叫』(06)など国内外から高い評価を受ける。また、『トウキョウソナタ』(08)では、第61回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞と第3回アジア・フィルム・アワード作品賞を受賞。近年の作品に、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した『岸辺の旅』(14)、第66回ベルリン国際映画祭に正式出品された『クリーピー 偽りの隣人』(16)など。

日本ではほぼ成立したことないジャンルに

――今回、「イキウメ」の舞台作品に惹かれて実写映画化されたということですが、惹かれた点について教えてください。

作品に出会ったのはかなり前ですが、一読して”侵略SF”という日本では普通の映画としてはほぼ成立したことのないジャンルの、素晴らしいアイデアに溢れていると直感しました。同時に、”こういうジャンルは必ず、ある種の社会に対する批判が込められるわけですけど、その込め方も、実にうまくいっていると思いました。ぜひやりたいと思いました。

――確かにハリウッド作品と違って、日本ではあまりない感じがしますね。

日本で言うと、怪獣映画かアニメですよね。もちろん怪獣映画も、『シン・ゴジラ』も含めて、社会のメタファーとして機能するわけですけど、やはり実写でそれを目指すと、普通ものすごくお金がかかるもので、僕などはそう簡単に手を出せるものではないですから。

――お話として、撮ってみて難しかった点はどのようなところでしたか?

もとのイキウメの芝居もそうなんですけど、この深刻な物語をどこかふざけたトーンで進めていって、だんだん本気になっていくその変化ですね。最初軽いふざけた感じで物事が進行していく展開は、僕自身はほとんどやったことがなく、映画でどう成立させるのかという点が難しかったです。軽くふざけた感じを出す、そういうニュアンスを観客に楽しんでもらいつつ、でも本当なのだというところへ持っていくのに苦労をしました。