スマホやタブレットといったデジタルデバイスの普及、2020年から小学校で導入されるプログラミング教育……そんな背景もあり、今ママたちの間で関心が高まっているのが"子どもへのデジタル教育"である。ところが、「子どもにスマホを使わせるのは抵抗ある」「何を教えていいのかわからない」と、漠然と不安や悩みを抱えている人も多いだろう。

そこで、今年6月に刊行された『AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55』(河出書房新社)の著者であり、明治大学で教鞭をとる工学博士ママの五十嵐悠紀先生に"今、子どもに教えるべきことは何か"を聞いた。

子どもとデジタルデバイスの関係を考えてみよう

今、子どもの教育の在り方、求められる能力が変わってきている

Q.まず初めに、同書をご執筆された背景について教えてください。

近年、小学校ではICT(情報通信技術)教育といってタブレット端子やデジタル黒板といったデジタルデバイスを導入した授業が行われていますし、2020年からはプログラミングに関する教育も始まります。「子どもに習わせたい習い事」ランキングでもプログラミングが上位に入っていることからもわかりますが、今ママたちの間で"デジタル教育"はとても関心度が高い分野だと言えます。

でも実は、小学校に入る前から、今の多くの子どもたちはすでにデジタルデバイスをスムーズに使うことができるようになっているんです。私も子どもが3人いるのですが、周囲のママたちからも「うちの子は写真を拡大できるよ」とか、子どもがデジタルデバイスに親しんでいることを聞きます。

ただ、それと同時に「家事をしているときに子どもにスマホでYouTubeを見せたら、それからず~っと子どもがスマホ画面に夢中になってしまった」という話や、世間では"子どものスマホ依存"という言葉もよく聞かれます。子どもにスマホを与えたことに対し、多くのママたちが罪悪感を抱えてしまっているのです。

CG技術などデジタル分野を研究している私としては、それがとても残念なことに思えました。例えば家事をしている30分間、子どもにスマホを与える場合に、YouTubeを見せておくのとプログラミングが学べるようなアプリを使わせておくのでは、まったく意味が違います。そのように、"使い方を変えるだけでスマホが教育に変わる可能性がある"ということを、本を通じて伝えたいと思ったんです。

Q.世間では"子どもにスマホを見せることは良くない"と言われることも多いですが、先生は、子どもがどのようにスマホと向き合うべきだと考えますか?

スマホでも3Dプリンターでもドローンでも、何か新しい物が開発されたときには、肯定的な意見と否定的な悪い意見の両方が出てきます。その両方に向き合うことが必要だと思います。例えば、"夜にスマホを使うと目が冴えて睡眠が浅くなってしまう"というデメリットがあるならば、「使ってはダメ!」と言うのではなく「朝使うようにしよう」と使い方を変えればいい。そのように、いい面だけでなく悪い面もちゃんと認識しながら、うまく使っていくことが重要だと思います。

Q.今、子どもの教育の在り方が変わりつつあると聞きます。実際、現在の教育現場では、どのような能力が重要視されているのでしょうか?

研究をしているなかでも、大学で学生と接しているなかでも、文章をつくってその内容をプレゼンすること、自分の意見で周りの人を説得することなど、今までのような"受け取る力"だけでなく、"考えていく力"が重要視されています。

また、中学受験においても、10~20年前と比べると、答案用紙が変わっているようです。これまでのような〇×や選択式ではなく、自分の考えを記入する記述式の欄が増えています。決まった答えを選ぶのではなく、子ども一人ひとりに考えさせて意見を述べさせること、答えに至るまでの過程で何を学ぶかが大切と考えられているのでしょう。

また、インターナショナルスクールに取材に行った際、デジタルデバイスを使った授業をしていたのですが、そこでは"ただデバイスを使うだけでなく、使ったうえで何ができるか"ということに着目していました。具体的には、デバイスを使って写真を撮り、その撮った写真を使ってみんなの前でプレゼンするのです。それによって、子どもたちの考える力やコミュニケーション能力を培っています。そのように、今までは休み時間に培っていたような能力が、現代の教育現場では重要視されているのです。