筑波大学とつくばウエルネスリサーチ、NTTデータ経営研究所、NTTアドバンステクノロジは8月30日、総務省予算により日本医療研究開発機構(AMED)が実施する「AIを活用した保健指導システム研究推進事業(2017年度~2019年度)」の大型研究プロジェクトに採択されたと発表した。これに伴い、9月から新潟県見附市、茨城県常総市と共同開発体制を組み、今回の申請テーマ「自治体における保健指導の施策力に応じた最適な保健指導モデルを提示できるAIの開発研究」を開始する。

プロジェクトの概要

同プロジェクトでは、筑波大学発VBであるつくばウエルネスリサーチ(TWR)が自治体と連携して構築してきた75万人以上の大規模データベース(健診、医療レセプト、介護保険、ライフスタイルデータなどを含むデータベース、以下、健康関連ビッグデータ)と、筑波大学久野研究室およびTWRがこれまで100以上の自治体の健康施策コンサルをしてきたノウハウを基盤に、4月に筑波大学に設置された人工知能科学センターとNTTグループの最新AI技術、さらには見附市・常総市の現場に蓄積された経験知を融合させることにより、世界初となる自治体の健康政策を支援するAIシステム(データヘルスシステム)、UIを開発するという。

同システムの具体的な要素は(1)課題発見・原因分析支援エンジン、(2)課題解決にむけた保健指導モデル立案支援エンジンの開発。これにより、全国のどこの自治体においてもエビデンスに基づいた現状分析と施策立案を行う体制が可能となり、自治体間の政策力の格差是正、住民の健康寿命延伸、医療費・介護費などの適正化を図る。

課題発見・原因分析支援エンジンは、自治体で蓄積されている健診・レセプトデータなどの健康関連ビッグデータを用いて、自治体ごとの地区別・疾病別の健康課題を察知し、その原因候補を特定。同エンジンは課題発見および原因分析モジュールで構成されており、前者は健康関連ビッグデータを用いて、住民の健康状態を施策上重要な疾病別の地区別偏差値ランキングとして見える化する。

後者は前者で提示された課題を目的変数とし、健康関連ビッグデータから目的変数の高低を分ける要因を統計的機械学習の手法である決定木(品質管理における層別・層化や、マーケティングにおける顧客セグメント分類などに用いられる統計的機械学習の手法)とベイジアンネットワーク(事象の共起確率をもとに全体の因果メカニズムを推論する統計的機械学習の手法)を用いて因果構造の学習を行う。

保健指導モデル立案支援エンジンは、課題発見・原因分析の結果をもとに課題を解決する最適な施策候補の組み合わせを、当該自治体の施策遂行力(人材、予算力)など多様な変数に基づき設定した優先順位に従い提示するほか、施策効果のエビデンスや先行事例、および施策効果による医療費抑制効果のシミュレーション結果などを提示。

具体的には、NTTグループのAI関連技術「corevo(コレボ)」を活用し、固有表現抽出技術等の自然言語処理技術で関連論文や健康施策のコンサルティングノウハウなどの研究成果を構造化し、データベースに蓄積する。これを概念検索技術により各自治体の課題と照合することで、施策の効果・予算規模やエビデンス、自治体の施策力などの多様な変数からなる優先順位に基づいた最適な保健指導モデルを提示。

また、自治体職員が利用する際は、条件設定(自治体施策の大目標、目標達成期間をプルダウンで選択するのみ、原因、推奨目標値がAIにより自動設定)をして施策を検索し、自治体の施策推進力(自治体の財政力、職員力、体制力等、施策を推進するための総合力を想定)に応じた施策候補が提供されるという。

自治体の施策遂行プロセスとリンクしたAIを活用した保健指導システムの全体像

プロジェクト体制は代表機関である筑波大学がプロジェクト全体の統括を実施し、課題発見・原因分析支援エンジンは筑波大学人工知能科学センター・サービス工学分野が主に開発し、保健指導モデル立案支援エンジンはNTTグループが主に開発を行い、保健指導システム基盤および保健師などが使いやすいUIはTWRが主体となり、研究開発を行う。

プロジェクト期間終了後には広く自治体への普及に努め、全国の自治体への導入を目指す。さらに、そのほかの自治体への展開を通じて、より広範・大量の健康関連ビッグデータが収集され、提示する保健指導モデルの精度向上、自治体間格差の是正などが実現するものと期待しているという。