九州大学(九大)は8月29日、双性イオン高分子の水溶液中でのナノ構造を解明したと発表した。

同成果は、九州大学先導物質化学研究所/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 高原淳教授、檜垣勇次助教、高輝度光科学研究センター 池本夕佳博士、森脇太郎博士、高エネルギー加速器研究機構 山田悟史助教らの研究グループによるもので、8月17日付の米国科学誌「Langmuir」に掲載された。

プラスの電荷とマイナスの電荷の両方を同一分子内に持つ双性イオン高分子は、生体分子の構造を模倣していることから高い生体適合性を有することが知られているが、生体適合性が発現されるメカニズムは未解明となっていた。

今回、同研究グループは、大型放射光施設SPring-8を利用した赤外分光測定と、大強度陽子加速器施設J-PARC MLFにおける中性子反射率測定による量子ビーム解析技術を用いて実験を行った。この結果、高分子中のプラス電荷とマイナス電荷の距離に応じて共存イオンに対する応答性が変化し、異なる膨潤挙動を示すことが明らかになった。この知見を用いることで、生体内の環境に合わせて適度な膨潤構造を持つような材料設計が可能になるという。

同研究グループは今回の成果について、抗血栓性カテーテルなどの高性能医療用高分子材料の開発によるライフサイエンス分野の発展に役立つだけでなく、水和双性イオン高分子の潤滑特性を利用した摩擦低減によるエネルギー効率の向上にも結びつくものであると期待されると説明している。

共存電解質との相互作用により変化する双生イオン高分子薄膜の水溶液界面における水和状態と分子構造因子の関係 (出所:九大Webサイト)